企業文化と企業風土

企業風土と企業文化、この違いも「似て非なるもの」であるのであれば、異なる条件とは何であろうか?
幾つかの書籍やインターネットの検索で、その定義を調べてみましたが、よく分からないのが実感です。今日は、この「風土」と「文化」の言葉の違いから本質的なことを探ってみましょう。

「風土」の意味を考えると、限定された地域、その土地の地形や気候、その独自性に影響されて生まれ、長期に渡り培われた人間の精神的構造、そんな感じです。
これに対して「文化」は、人間の発展意欲から生まれる知的創造や精神的所産の総称、そんな感じです。
と、言っても分かりにくいので、もう少し掘り下げてイメージを比較してみましょう。
<風土のイメージ>
1・その土地に根付いている。
2・独自性が強く閉鎖的。
3・自然発生的。
4・長い年月を経て培われる。
5・風習、伝承、地域行事、料理など。
6・かなり限定された言語の影響。
7・同じ状態で引き継がれてゆく。
8・個人に例えると気質や癖。
9・パソコンに例えるとOS。
10・慣習等による固定的な価値観、精神。 <文化のイメージ>
1・土地よりも、その時代を反映する。
2・創造的で外部との交流がある。
3・自発融合的。
4・長期あるいは短期に形成、変容する。
5・美術、教養、技術 化学など。
6・国や民族単位での言語の影響。
7・引き継がれ発展してゆく。
8・個人に例えると能力の表現。
9・パソコンに例えるとアプリ。
10・知的で自由な価値観、精神。
と、ざっとこんな感じです。


こうして比較してみると、風土では外部からの影響を受けない、あるいは受け付けない部分の継承で、文化では外部の影響を取り入れ変化変容し、そして再び外部へ表現することが読み取れます。極端な言い方をすれば、風土は社会の変化とは凡そ無関係で、文化は社会の変化を導くものと言い換えできます。精神的にも変化を拒み、限られた枠内での成熟である一方、文化では新しい展開、発達を求める精神であるのではないでしょうか。

これらのイメージを企業に当てはめてみると「企業風土」では、世の中の流れに対して、殆ど無関係に形成される部分、あるいは企業という組織内部で自然に培われた慣習らしきもの。「企業文化」では必要な物事を取り入れ成長してゆく部分、外部へ接する機能、表現です。
比較の中で個人に当てはめると「風土」は気質、性格、癖など、良くも悪くも遺伝的な継承で、そう簡単には変化は望めません。しかし、「文化」が能力やコミュニケーションであるのなら、発達し変化してゆかなくては他者からの興味を引くことはないでしょう。

ここで問題となるのが「企業」という言葉です。企業の環境は絶えず「競争」にさらされ、利益獲得という共通の目標を課せられた組織、集団であります。これに「風土」と「文化」が組み合わされると、どのようになるのでしょう?

「企業風土」は、その組織が引き継がれてゆく体質であり、設計上の組織制度ではなく実質権限を持つ縦の制度であり、その階層を繋ぐコミュニケーションの質そのものです。
上意下達、集権的な決定権、密室会議、売上至上主義や利益至上主義、体育会系、男尊女卑、エゴの塊、階級または階層的など、これらは企業経営においては古めかしい体質であると非難できないこともないですが、現実にはまだまだこういった組織体質の企業は多く、必ずしも経営上、不利に働くことを意味しているもではありません。
また、古き良き体質もあります。親切、思いやり、共生、相互扶助、仲間意識や家族的経営、貢献する意識、平等願望などは、従業員にとっては長期的に安心、安定できる要素と言えます。これらの企業体質と呼ぶべき性質のものは、厳しさと穏やかさ、アメとムチに例えられますが、多かれ少なかれ、その両方が組織の中に棲んでいます。

一方、「企業文化」は顧客、取引先、業界、地域社会、世間といった外部との関わり、広義でのコミュニケーション、企業アプローチ、認知、表現、企業価値イメージなど、外との接点である意味が大きく介入してきます。
実力、信頼性、楽しさや貢献度、技術の高さ、管理の徹底、あるべきモラル、利便性、デザインなど、外から見える企業のパフォーマンス、あるいはポテンシャルを感じさせる組織上の能力で、これらが文化的要素であるとするのなら、その効果は企業内部における従業員のモチベーションや定着、人材確保、人材教育や育成に貢献し、また外部である顧客や取引先、地域社会などへ企業の存在価値をアピールし、ブランド力や付加価値に貢献することが期待できるものです。

企業文化の創造や発展が、企業経営上で重要な鍵になり、内外ともに戦略価値として充分取組むに値する事柄でありながら、企業風土は暫し、その足を引っ張りかねない素があります。価値感の固定化を導き、意思決定機関さえもモラルの低下を招き、多くの従業員からモチベーション奪い、判断と行動のスピードを鈍らせ、時には企業存続に関わる程の重大な過失を生む要因は、企業文化ではなく風土にあると考えられます。

最近では、この企業風土の改善、いわば個人でいう体質改善や性格改善に近いニュアンスがありますが、その取組みはあるようです。例えば社外取締役を増やしたり、ヘッドハンティングしてCEOを交代させたり、なかなか困難な問題で簡単に変化することはないでしょう。
企業文化は間接的であれ、競争にさらされ変化を余儀なくされますが、企業風土は競争にさらされることなく、自ら築くもの、あるいは気がつくと誰もが理想しなかった方向に出来上がり、しかし、競争の中では「風土」さえも再構築する術を身につける必要がある、そう言っています。


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