0160 遺族厚生年金1 受給要件

遺族厚生年金も遺族基礎年金と同様、被保険者であった者が亡くなった場合に支給されます。遺族基礎年金が「子の支援」の考え方に対し、遺族厚生年金は、より「保険」的な要素が強く、該当遺族の対象範囲も広い反面、支給条件や支給額には、より細かな条件設定が成されています。

遺族厚生年金は、まず被保険者であった期間によって「短期要件」「長期要件」に分かれています。
●短期要件
(ア) 厚生年金の被保険者が亡くなった場合。
(イ) 厚生年金の被保険者資格を喪失した後、被保険者期間中に初診のある傷病で、初診日から起算して5年以内に死亡した場合。
※つまり、これは厚生年金保険を脱退しても、加入していた時に初診をした病気やケガが原因で亡くなれば、初診日から数えて5年以内なら対象になりますよ、と言っています。
(ウ) 障害等級が1級、2級の障害厚生年金の受給権者が亡くなった場合。
※ 上記の(ア)(イ)の場合は、厚生年金保険の被保険者(亡くなった方)の保険料納付要件を満たすことも必要です。この要件は前回に書いた遺族基礎年金(当ブログ、0159)の保険料納付要件と同じで、特例も含みます。
※ 行方不明や死亡の確認、生計維持関係の判定基準は、これも遺族基礎年金と同様です。

●長期要件
(エ) 老齢厚生年金の受給権者、あるいは老齢厚生年金の受給資格期間を満たした者が亡くなった場合。
※ 短期要件の説明に「長期要件に該当しないければ、短期要件になります」とは書かれていません。そして老齢厚生年金の受給資格は、老齢基礎年金の合算対象期間(当ブログ0133、0134)の25年以上あれば、ほぼ受給資格の条件をクリアします。つまり、会社勤めをして50歳くらいになれば、上記の(ア)と(エ)の場合が同時に起こる可能性が出てきます。この場合、年金請求時に遺族の申し出がないと、短期要件として扱われることになります。

さて、次に遺族厚生年金に該当する「遺族」の条件になります。
 この「遺族」の範囲ですが、遺族基礎年金と同様に、同一世帯での生計維持関係が前提となります。その上で、妻、夫、子、父母、孫、祖父母が該当遺族と言えますので、遺族基礎年金に比べると範囲は広くなります。「子のいる妻」でない、子のいない妻、夫も対象ですし、父母、孫や祖父母にまで範囲の対象に幅があります。しかし、その分、支給される条件に関しては注意が必要です。
遺族厚生年金の遺族の範囲は上記の通りですが、受給に関しては優先順位があります。
第1順位 : 配偶者、または子。
第2順位 : 父母。
第3順位 : 孫。
第4順位 : 祖父母。
※ 妻の場合、受給権に年齢制限はありませんが、30歳未満で受給すると、支給期間が5年の有期給付となります。
※ 子の条件は遺族基礎年金(当ブログ0159)と同様です。18歳になった最初の3月末まで、障害等級が1級、2級の方は20歳まで、子は未婚であること。孫についても「子」と同様です。
※ 夫、父母、祖父母は、本人が亡くなった当時55歳以上でなければ受給権が発生しません。加えて60歳にならなければ支給されず、その間は支給停止となります。
※ 妻に遺族厚生年金の受給権がある期間は、子の遺族厚生年金はその間、支給停止になります。子に遺族厚生年金の受給権がある期間、夫の遺族厚生年金はその間、支給停止になります。つまり、受給できる遺族は、同順位の場合、通常では、妻 → 子 → 夫 になるケースが多く、受給者以外は支給停止状態になります。ただし、例えば妻も夫も亡くなり、子が受給権者で複数の子がいる場合は、支給額を子の頭数で割った金額で、それぞれの子が受給できます。
※ 同一世帯で生計維持関係(これは遺族基礎年金と同様です。当ブログ0159)があり、850万円以下の収入であることは、全ての順位に共通する条件です。また、亡くなった本人の兄弟や姉妹、義理の父母は対象外です。それから基本的に受給権の転移(第1順位の受給権者が失権すると、第2順位の者が受給権者となる→このことを「転給」と呼ぶそうです)は、ありません。例えば、妻と母を扶養している夫が亡くなった場合、順位から妻に受給権が発生し、支給されます。この妻が、新しい男性と結婚した場合、妻は失権しますが、第2順位である母に受給権が移ることはなく、従って母に支給されることはありません。
※ 前述した受給資格の短期要件、長期要件について、遺族厚生年金が定める「遺族の範囲」には影響しません。短期要件、長期要件は支給額に反映があります。

遺族基礎年金、遺族厚生年金は「妻を亡くした夫」の設定が欠落している。そう言わざる得ません。改定される動きはあるそうですが、現段階では実現していません。

例えば、子が2人いて幼稚園と小学生であった場合、父親の年齢が、40歳前後方が多いといえます。30歳前後で結婚し第一子、第二子となれば当然の年齢です。しかし、この環境で妻を失った場合、かなり悲惨な状況が考えられます。我が子の食事に洗濯、教育に遊び、会話と不安の除去、健康管理に入浴に・・・・これらの殆どは妻がやってくれていましたが、亡くなれば夫しかいません。近親者等の協力が得られなかった場合、現在の仕事につていも、勤まるかどうか疑問です。仮に40歳前後で転職するとなると、経済的な影響、自己の精神的な影響もたいへんな状況になることが予想されます。

妻が亡くなった場合、このような環境になることは、誰もが簡単に想像できます。しかし遺族基礎年金では、そもそも「夫」に対する支援は何もありません。対象外です。遺族厚生年金では、子に対して支給が可能になりますが、この例のように夫が40歳くらいであれば、夫そのものについては遺族基礎年金と同様に対象外です。

子が2人で住宅ローンに自家用車、これでは年収500万でも困難と言えます。つまり多くの家庭では、夫婦共働きでないと、なかなか暮らしていけないのが現実です。夫婦でお互いに仕事を持つという前提で、生活設計を考える価値観が必要になります。この価値観を共有し、実行することで、様々な将来起こり得るリスクを軽減できる、最善の方法と思います。夫婦同等で、どちらが欠けても、多大な影響がでてきます。その中で、年金が対処できる範囲は、妻を亡くした夫に対し効力はなく、このことに対応するには、民間の生命保険等に頼るしかなさそうです。

そもそも、この遺族年金の「夫」にたいする想定は、高度成長期の「男が稼いで、女は家のこと」時代で、今となってはお伽噺の世界です。