0191 所得税1 所得って何?

これから所得税に進んでゆきますが、その前に「所得」の意味を理解しておく必要が生じます。

所得と言えば「収入」とか「儲け」とか、金銭的な収穫をイメージすると思いますが、「所得」を定義するのは、なかなか困難なものです。例えば所得を会計上の「資産の増加」としたとき、借入金(借金)であっても資産増加には変わりありません。借金の場合、先で言う、ある種の収入ではありますが「儲け」ではない、と言えます。

よく簡単な税金の本等を読んでいると、所得とは「利益」である。そう解説しています。しかし「儲け」という響きの方がより単純で、正確に解釈できるかもしれません。

例えば、何らかの事故が起きて、その事故に対する損害賠償を請求し、賠償金を得た場合、果たしてこれは「儲け」であるのでしょうか?
賠償金を広義の収入とみることは簡単ですが「儲け」とは違ってきます。もともとあった資産が事故によって失い、その資産を賠償金によって回復したに過ぎません。つまり、元に戻っただけなので「儲け」ではないのです。

借入金で考えると、例えば銀行から100万円借りて、半年後に105万円にして返す場合、借りた個人は100万円増えるので、その分が資産の増加になります。一方で現金を貸した銀行は100万円の資産減少になりますが、これは一時的なものであって、将来結果的には、貸し手である銀行が5万円を儲け、借りた個人は5万の出費になります。つまり内容は物のレンタルと似た考えで、儲けた銀行側に課税が生じ、借りた個人の借入金には税金の課せは生じません。

商売でいえば利益(儲け)は売上から経費を引いた分、利益=売上−経費になります。企業の収益にしても、サラリーマンが貰う給料にしても、必要経費を引いた残りが利益にあたります。もちろん実際にはもっと細かい、精密な計算をして利益確定が成されますが、ま、大雑把な理解においてはこんな感じです。

例えば、企業の業績が良く、過去にない程の利益を獲得した反面、工場が火災により大きな損失を出したとします。その場合、最終的な利益はこの損失を引いた額になります。個人の所得であっても、このような損失があれば、基本的にはその損失を引いて残った額に課税されます。

これらを勘案すると、税法が意味する「所得」とは「純資産の増加」にあたります。会計上の純資産増加なので、もちろん借入金で資産が増えても、純資産の増加はありませんし、利益があっても一方で同じ額の損失があれば、同様に純資産の増加はないのです。昔は純資産のことを「自己資本」と言いました。

企業会計では純資産の増加は、税引き後になりますが、上記の意味は税引き前当期純利益に当たります。これは会計上の純資産増加の概念を示すものであって、企業会計における財務諸表手続きを意味しているものではありません。
※ 損失と利益を相殺する場合、税法上のルールに従って行いますが、ルールそのものが多く複雑です。このような部分が税金の面倒くさいところです。お気づきだとは思いますが、例えば、競馬で多額の損を出しても、所得と相殺して減税はできません。では、何処までの範囲なら?等を規定しているので複雑になるわけです。

税用語で、よく「担税力」という言葉が出てきます。簡単に言えば「あなたオカネに余裕あるでしょ?税金もらいますよ」って感じです。「担税力がある」ということは、それだけ税金を納める能力が高いとなるので、俗にいう金持ちや資産家等は、この担税力があるというわけです。

しかし、この担税力が「ある」「ない」を国民の1人ひとり調査をして判定するなんてできません。現実にお金持ちであるかどうかとは別のことで、国や地方自治体の課税当局が、高収入の人には高い税率を掛けたり、土地や建物などの売り買いは、高額な取引なので、このような取引をするも者は、担税力があるだろうとみなしているに過ぎません。何らかの取引によって儲けたのだから、その中から税金を徴収します。儲かれば、儲けた分、税金を払って下さい。これが税法なのです。

さて、この「儲け」が生じた場合、何かしら税金を納めるような仕組みになっています。企業が儲けたなら法人税として、個人がもうけたなら所得税として。資産の増加が生じれば課税の可能性が出てきて、そしてそれが「純資産の増加」に当たるかどうかが問題となりますが、そうした所得はすべて所得税として課税されるのでしょうか?

次回はこの「所得税」が規定する「所得」の範囲を勉強します。