0272 所得税76 譲渡所得6 課税の繰延(相続の場合)

前回の金持ちおじさんと愛人の場合は、他人への譲渡を例としていますが、一般的に多くの場合は子孫への贈与や相続です。

個人資産を他人に譲渡する場合は、通常売却によるものなので、売却時にその資産を保有していた値上り益を清算し譲渡所得として課税されます。他人に無償譲渡(贈与)した場合では、時価の取引とみなして値上り益に課税する「みなし譲渡」の計算は適用せず、受取った側が次回に売却等をして譲渡益を清算する、課税の繰延になります。

このとき担税力を考えると、少なくとも無償で資産を受取った側は、受取る以前と比べて必ず資産が増加しますから、担税力からみても課税は適当です。問題とされるのは無償譲渡をした側の課税で、みなし譲渡を適用すると現実には値上り益を手にしていないのに課税が生じ、課税根拠である「資産の増加」は計算上のみで、実現化されていません。従って、贈与におけるみなし譲渡の適用は妥当と言えず、課税の繰延を認めることになります。

他人への譲渡はまだしも、自分財産を子や孫に承継するとき、個人でみると確かに資産は移転することになりますが、家族単位でみると資産の移転はありません。父親が所有している不動産を息子や娘に所有権を移転しても家族単位での所有資産は変わらず、担税力も変わりません。

贈与の場合に起こる「課税の繰延」は他人に譲渡しても、実子に譲渡しても大差はありませんが、相続の場合は相続人が、被相続人(亡くなった人)から財産を引継ぐときに幾つかの選択権があります。選択には以下の3つがあります。

(1)相続の放棄
相続の放棄は、被相続人から全ての財産(有益、無益、債務)を承継することを拒否する他に、相続人の地位そのものが失われます。ただし、法定相続人としては人数に算入されます。相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所への申請手続きが必要です。

(2)限定承認
相続人が財産を相続するとき、被相続人からの財産は積極財産を限度として消極財産を負担することを限定承認としています。つまり、被相続人の有益な財産と借金を相殺させ、有益な財産が残れば引継ぎ、借金が多い場合には有益な財産と相殺できる限度までで、残りの借金は引継ぎません。
相続の放棄同様に手続きが必要ですが、相続の放棄は通常は単独(一人)でできますが、この限定承認は一人では認めてもらえず、他の相続人と共同で申請手続きをしなければなりません。

(3)単純承認
上記(1)(2)以外の場合、つまり相続開始から上記のどちらかの手続きをしない限り、通常の相続となります。これを単純承認と言い、有益な財産、債権と債務、全てを引継ぐことになります。
さて、課税の繰越についてですが、上記(1)の場合は放棄なので無関係です。
(3)の単純承認の場合は財産を引継ぎ、前述した「課税の繰越」となります。
(2)の限定承認の場合は「課税の繰越」は適用されず「みなし譲渡」として課税されるので、時価で計算され資産の増加益に課税されます。このとき、譲渡所得の課税は手離した側、つまり亡くなった被相続人の所得に課税することになります。従って相続人は故人所得申告「準確定申告」という申告手続きが必要となります。

この限定承認では、有益な資産を引継ぎ、その資産で借金等の弁済に充てることになります。言わば、相続した財産内で債務の弁済を行うわけですが、そうすると「みなし譲渡」として所得税の課税が発生するので、その分も債務となり弁済することになります。合理的に「取れるものは取る」です。これは企業が倒産したときの債務弁済の順位と似ています。企業の弁済順位は従業員の給与、次いで税金、そのあとに取引先の債務となりますから、税金優先です。しかし、譲渡所得なので資産の増加益が発生しなければ課税はありません。

「課税の繰延」は、すべての譲渡を「みなし譲渡」として課税すると、無償譲渡のような時には実際に手にする収入はないので、納税者側からすれば到底納得できない制度となります。このように理不尽な課税を考慮すべき措置として「課税の繰延」が存在しますが、課税根拠が「資産の増加」を前提としてるのであれば、課税システム全体から見ると特殊なケースであると言えます。

国税庁相続税贈与税、延納の手引き→
http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/nofu-shomei/enno-butsuno/pdf/01.pdf
国税庁、準確定申告→http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2022.htm
国税庁、限定承認をした相続財産から生じる家賃→http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/shotoku/01/06.htm
相続税贈与税、遺言の部屋→http://123s.zei.ac/souzoku/souzokuhouki.html

★当ブログ0231免責事項をお読み下さい。

★上記の本の感想は当ブログ270で読めます→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20130510