0271 所得税75 譲渡所得5 課税の繰延(贈与の場合)

少し日数があきましたが、前回の話で無償譲渡や低額譲渡は贈与税にあたり、贈与税の場合は資産を受取った側に税金の納付が生じます。

譲渡所得とは、保有期間中の資産の増加益を清算する意味であり、その差益が譲渡所得に該当しますので、通常は所有していた資産を売却した側に課税が生じます。

さて、前回のブログ譲渡所得4→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20130423で、金持ちおじさんは愛人に所有していたマンションを無償譲渡(贈与)しました。無償譲渡ですが時価4,000万円相当のマンションです。

愛人は4,000万円のマンションを無償でもらいましたが、その贈与税は計算で1,720万円に上ります。{(贈与額−基礎控除額)×税率−税率に対する控除額}={(4,000−110)×50%−225}=1,720万円です。

しかし、愛人には1,720万円という高額な税金を払える資力はありません。それどころか貯金はせいぜい30万円くらいです。しかし納税は通常、現金払いでその年の年末で締切、翌年の2月〜3月15日までに申告納税することになっています。

愛人がこの税金を実際に支払うとするならば、自分の所有物件となったマンションを担保にして、金融機関から借入して納めるしかなさそうです。相続税だけではなく贈与税についても「延納(毎年分割して納める)」が可能です。しかし、この場合も一定の条件のうえ手続きがあり、担保の提供も必要な上、分割延期に対する期間の金利(利子税)も加算されますので、金融期間から借入して一括納税し、借入金を分割返済する方法と内容は大差はありません。

贈与税の延納では最長で5年、金利は特例割合の低率で計算しても毎月約32万円、普通のサラリーマンでは到底払えない。毎月10万円の支払いにすると凡そ20年はかかります。(正確な計算は行っていません)高額な資産をプレゼントされると多額の借金を背負うことになりそうです。

贈与税の話はこの辺りにして、本題の譲渡所得に移りましょう。

譲渡の場合は買ったときの価額と売ったときの価額の差、その儲けによって課税されます。金持ちおじさんの場合では愛人にあげるマンションを当初3,000万円で買い、愛人に無償譲渡するときには時価4,000万円に上昇していました。

この場合は単純に「4,000−3,000」で1,000万円が譲渡所得にあたります。通常ならこの考え方で問題ありませんが、金持ちおじさんは愛人にマンションを無償譲渡したので、現実には儲けを得ていません。つまり、計算上で譲渡所得が発生しても実際には得た所得はない、そういう矛盾が起こります。

譲渡所得は保有していた資産を手放すとき(売却)に、保有期間中に値上りした儲けを清算して課税します。しかし、いくら理論上で譲渡所得が発生しても、無償譲渡や低額譲渡では現実に手にする儲けはありません。こうなると課税の前提である「資産の増加」は結果的に発生しないので、別の措置が必要になってきます。

そこで、こう言ったケースを考慮して所得税法(60条)では取得費の引継ぎを認めています。資産を譲渡した側に課税をせず、資産をもらった側に引継がれ、次回の清算時にまとめて課税され、事実上の課税の繰延とします。

前述した金持ちおじさんと愛人の例でいくと、おじさんがマンションを購入したときは3,000万円で愛人に贈与したときは時価4,000万円でした。おじさんがこのマンションを売却をしていれば1,000万円の売却益が生じ、この分が資産の増加となり譲渡所得として課税されます。しかし、おじさんは愛人に無償でマンションをあげたので、おじさんの手元には利益とされる収入はありません。これではルール上の「みなし譲渡(時価での取引として課税する)」を原則としても、納税者は現実的には無益なので理解を得られません。そこで、おじさんが愛人に贈与したときには課税を見送り、マンションをもらった愛人がそのマンションを売却等の処分時に課税関係を引継ぎます。

マンションをもらった愛人が5年後に5,000万円で売却した場合、マンションをもらった時の時価4,000万円で計算するのではなく、おじさんがマンションを取得した3,000万円から計算し、つまり「5,000万円−3,000万円=2,000万円」が譲渡所得として課税される計算になります。

この「課税の繰延」は、個人から個人の贈与では適用される場合がありますが、法人からの贈与ではありません。法人からの贈与の場合、必ず「みなし譲渡」として課税され、その贈与を受取った個人は贈与税ではなく、所得税の一時所得として課税されるため清算を繰延、引き継ぐ事はできません。

国税庁相続税贈与税、延納の手引き→http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/nofu-shomei/enno-butsuno/pdf/01.pdf
国税庁、贈与の際に支出した費用→
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/shotoku/joto-sanrin/050812/06.htm
相続税贈与税、遺言の部屋→http://123s.zei.ac/souzoku/souzokuhouki.html
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