0345 所得税147 損益通算1 損失の対象範囲

これまで所得税の項で10種の所得区分と、所得控除についても給与所得の流れで説明してきました。仮にその年度で、これら10種の所得すべてが生じた場合、どのような計算手続きとなるのか、その計算手順の過程で必要となるが「損益通算」です。
損益通算は、ある所得で生じた損失を他の所得で相殺することですが、これもまた様々な規則があり、計算手順も決まりや順序があります。

計算では、まず所得の10種の収入から経費を控除した、各所得額を算出した次の段階にあたります。しかし、10種の所得をすべて合計して、損失が生じた分をその合計額から差引くことではありません。
所得の中でも合算できるもの、できないものがあります。所得はその区分によって課税方法が「総合課税」と「分離課税」に分かれます。分離課税は更に「源泉徴収税(源泉分離)」と「申告分離課税」とに分かれ、所得によってはその課税方法を選択、源泉徴収の場合でも一部は総合課税として合算できるようになっています。

まず、所得10種の「収入−経費=所得」の関係と、課税方法の概略は次のようになります。
(1)利子所得・・・・「収入金額−0円」(原則、源泉分離課税で一部に総合課税の場合あり)
利子所得の場合、時間経過と共に勝手に利益を生み出すので、経費として該当する控除はありません。

(2)配当所得・・・・「収入金額−負債利子」(総合課税、分離課税、申告不要制度のいずれかを選択)
配当所得は主に株式等の配当で、その元本にあたる部分について借入により取得し、その利息費用が経費として該当するわけですが、これは負債が発生した元本の確定やその期間、申告手続きなどの規定があります。

(3)不動産所得・・・・「収入金額−必要経費」(原則、総合課税)
不動産所得は、土地や建物等を活用して得られた利益で、通常では建物の維持管理にかんする費用は経費として扱われます。しかし、この費用である「維持」とは本来の機能を戻す程度のもので、資産価値を高めるような投資であれば経費として認められません。

(4)事業所得・・・・・・「収入金額−必要経費」(原則、総合課税)
法人以外の個人事業が主な所得者ですが、この場合の経費は「事業費用」と「私的流用」との区分が明確である必要が生じ、一定の規定があります。店舗費用や設備等の維持管理費、人件費、仕入代、電気ガスなどの光熱費と通信費、事業にかかる借入金の利子等が該当します。

(5)給与所得・・・・・・「収入金額−給与所得控除」(総合課税、源泉徴収制度)
この場合の給与所得控除とはサラリーマン等の給与所得者の「経費」に該当する意味で、源泉徴収なので個別に経費を認めるのではなく、収入によって一定額を経費として控除します。
 <給与収入額>                      <控除額>
 ・給与収入が180万円以下・・・・・・・・・・・・・・収入金額×40%
 ・給与収入が180万円超〜360万円以下・・・・・・・・・収入金額×30%+18万円
 ・給与収入が360万円超〜660万円以下・・・・・・・・・収入金額×20%+54万円
 ・給与収入が660万円超〜1000万円以下・・・・・・・・収入金額×10%+120万円
 ・給与収入が1000万円超〜1500万円以下・・・・・・・・収入金額×5%+170万円
 ・給与収入が1500万円超・・・・・・・・・・・・・・・245万円

(6)譲渡所得・・・・・・「譲渡による利益−経費−(特別控除額50万円まで)」(総合課税、あるいは条件、選択によって分離課税、尚、申告不要制度とは証券会社等の特定口座で源泉徴収を選択した場合です)
この譲渡にかかる費用は、不動産であれば業務上であれば会計上での減価償却累計額や、業務でなければその期間の減価額、設備費や改良費、譲渡手続きに係る諸費用などが該当します。加えて特別控除額が最大50万円まであります。また、株式等の譲渡であれば、その株式取得に係る負債利子分が期間対応の上、経費として算入できます。
譲渡は様々なケースがあります。短期保有と長期保有で条件が異なる上、不動産や動産、株式や権利、動産であれば中古品や生活必需品など、そのケースも多様で軽減税措置の特例も多く、注意を要します。

(7)一時所得・・・・・・「収入−費用−(特別控除額50万円まで)」(総合課税、一部源泉分離課税
一時所得は「営利目的」「労働の対価」「譲渡の対価」に該当しない収入で、懸賞金や一定の条件を満たす保険金の受取金が該当する収入ですが、その収入を得るために係った費用は経費として控除できます。加えて特別控除額が最大で50万円あります。

(8)雑所得・・・・・・・「収入−経費」(総合課税、一部源泉分離課税
雑所得は他の9つの所得に該当しない所得が「雑所得」として扱われ、講演料や原稿料、特許権使用料などがあります。年金収入もこの雑所得として区分され、年金受給では「公的年金収入−公的年金等控除額」となります。

(9)山林所得・・・・・・「収入−経費−(特別控除額50万円まで)」(原則、分離課税)
山林所得は、通常は伐採した樹木等の譲渡収入、権利に関するものですが、様々なケースがあり山林所得以外に、事業所得、不動産所得、雑所得に該当する場合があります。経費は譲渡にかかる費用や伐採費、運搬費用があります。(原則、分離課税)

(10)退職所得・・・・・・「収入−退職所得控除」×0.5=退職所得金額(源泉徴収制度、分離課税)
控除額は勤続によって異なり、勤続が20年以下であれば「勤続年数×40万円(最低80万円)」で、勤続が21年以上であれば「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」が控除額となり、課税対象となる所得はその控除した額の半分となります。

上記10種の所得のうち「利子所得」「給与所得」「退職所得」の3つは損失が発生しません。また、「配当所得」についても通常ではほとんどありません。「一時所得」と「雑所得」の損失も特殊なケースであるといえます。
つまり、10種の所得のうち赤字が生じた所得、損失が発生した所得でも「損益通算」できる所得は原則、「不動産所得」「事業所得」「譲渡所得」「山林所得」の4つに限られます。

4つの所得でも、特殊な損失として次のような場合、損益通算の対象から除外されます。
(イ)不動産所得で生じた損失のうち、業務用の土地等の取得に係る借入金の利子に相当する部分の金額。
(ロ)土地建物の譲渡で、分離課税として損失が生じた金額はなかったものとされます。
(ハ)通常、生活に必要とされない資産に係る損失は対象とされません。例えば、別荘や絵画、骨董品や貴金属などが該当します。ただし、競走馬の譲渡で生じた損失は、保有に係る雑所得から相殺し、それ以上の損失はなかったものとされます。
(ニ)株式等の譲渡所得等の計算上生じた損失はなかったものとされ、損益通算から除外されます。ただし、特定口座の場合は、その口座内の損益については通算されます。また、平成21年以後で、上場株式等の譲渡により生じた損失、または3年以内で同様の損失が生じ控除されていない分に関しては、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得から控除できるとされています。
(ホ)先物取引に係る雑所得の金額(差金決済)で計算上生じた損失はなかったものとされ、損益通算から除外されます。

国税庁、損益通算→https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2250.htm
国税庁、上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除→http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1474.htm
★経常所得と非経常所得→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20140203
★給与計算と所得税http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131229
★所得控除の計算手順→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131223
所得税の課税方法→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20120909
所得税の計算手順→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20120917
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★ニーサ→http://d.hatena.ne.jp/sotton+column/20130627/1372343935