0334 所得税137 所得控除13 所得控除の計算手順

所得税の本を読んでいると「控除」という言葉が実に多く出てきます。控除とは収入から税法の規定に従って差引くことですが、所得税全体から納税額を計算するのは複雑で、計算のどの時点で控除を行うのかは、重要な計算手順となります。この控除を算出上どの時点で差引くのかで納税額は随分と異なってくるからです。

収入から納税額算出までに、実に多くの計算規定が存在し、その全てを理解することはかなり困難で税理士や公認会会計士などの専門家が役割を担うのも無理はありません。
様々な控除が、算出上いつの時点で、収入から差引くかについては大きく3つの段階があります。
(A)所得上の「経費」にあたるもので、10種の所得でそれぞれ規定があり「収入−経費」で最初の段階で控除されます。その収入を獲得するために犠牲となる費用で、その費用を税法で規定し、控除として差引きます。
(B)「所得控除」とよばれるもので、これは担税力や社会的政策により規定されたもので、総合課税と分離課税とも税率をかける手前で控除されます。
(C)「税額控除」は各所得に税率をかけた後に合算し、言わばほぼ算出された税額から控除されますので、節税効果の高い控除で、条件的に限られた控除です。

上記の算出手順をもう少し細かく見てゆくと、まず10の所得については次のようになります。
(A)各所得の経費に該当する控除
(1)利子所得・・・・「収入金額−0円」(原則、源泉分離課税で一部に総合課税の
場合あり)
利子所得の場合、時間経過と共に勝手に利益を生み出すので、経費として該当する控除はありません。
(2)配当所得・・・・「収入金額−負債利子」(総合課税、分離課税、申告不要制度のいずれかを選択)
配当所得は主に株式等の配当で、その元本にあたる部分について借入により取得し、その利息費用が経費として該当するわけですが、これは負債が発生した元本の確定やその期間、申告手続きなどの規定があります。
(3)不動産所得・・・・「収入金額−必要経費」(原則、総合課税)
 不動産所得は、土地や建物等を活用して得られた利益で、通常では建物の維持管理にかんする費用は経費として扱われます。しかし、この費用である「維持」とは本来の機能を戻す程度のもので、資産価値を高めるような投資であれば経費として認められません。
(4)事業所得・・・・・・「収入金額−必要経費」(原則、総合課税)
法人以外の個人事業が主な所得者ですが、この場合の経費は「事業費用」と「私的流用」との区分が明確である必要が生じ、一定の規定があります。店舗費用や設備等の維持管理費、人件費、仕入代、電気ガスなどの光熱費と通信費、事業にかかる借入金の利子等が該当します。
(5)給与所得・・・・・・「収入金額−給与所得控除」(総合課税、源泉徴収制度)
この場合の給与所得控除とはサラリーマン等の給与所得者の「経費」に該当する意味で、源泉徴収なので個別に経費を認めるのではなく、収入によって一定額を経費として控除します。
 <給与収入額>                      <控除額>
 ・給与収入が180万円以下・・・・・・・・・・・・・・収入金額×40%
 ・給与収入が180万円超〜360万円以下・・・・・・・・・収入金額×30%+18万円
 ・給与収入が360万円超〜660万円以下・・・・・・・・・収入金額×20%+54万円
 ・給与収入が660万円超〜1000万円以下・・・・・・・・収入金額×10%+120万円
 ・給与収入が1000万円超〜1500万円以下・・・・・・・・収入金額×5%+170万円
 ・給与収入が1500万円超・・・・・・・・・・・・・・・245万円
(6)譲渡所得・・・・・・「譲渡による利益−経費−(特別控除額50万円まで)」(総合課税、あるいは条件、選択によって分離課税、尚、申告不要制度とは証券会社等の特定口座で源泉徴収を選択した場合です)
 この譲渡にかかる費用は、不動産であれば業務上であれば会計上での減価償却累計額や、業務でなければその期間の減価額、設備費や改良費、譲渡手続きに係る諸費用などが該当します。加えて特別控除額が最大50万円まであります。また、株式等の譲渡であれば、その株式取得に係る負債利子分が期間対応の上、経費として算入できます。
 譲渡は様々なケースがあります。短期保有と長期保有で条件が異なる上、不動産や動産、株式や権利、動産であれば中古品や生活必需品など、そのケースも多様で軽減税措置の特例も多く、注意を要します。
(7)一時所得・・・・・・「収入−費用−(特別控除額50万円まで)」(総合課税、一部源泉分離課税
 一時所得は「営利目的」「労働の対価」「譲渡の対価」に該当しない収入で、懸賞金や一定の条件を満たす保険金の受取金が該当する収入ですが、その収入を得るために係った費用は経費として控除できます。加えて特別控除額が最大で50万円あります。
(8)雑所得・・・・・・・「収入−経費」(総合課税、一部源泉分離課税
 雑所得は他の9つの所得に該当しない所得が「雑所得」として扱われ、講演料や原稿料、特許権使用料などがあります。年金収入もこの雑所得として区分され、年金受給では「公的年金収入−公的年金等控除額」となります。
(9)山林所得・・・・・・「収入−経費−(特別控除額50万円まで)」(原則、分離課税)
 山林所得は、通常は伐採した樹木等の譲渡収入、権利に関するものですが、様々なケースがあり山林所得以外に、事業所得、不動産所得、雑所得に該当する場合があります。経費は譲渡にかかる費用や伐採費、運搬費用があります。(原則、分離課税)
(10)退職所得・・・・・・「収入−退職所得控除」×0.5=退職所得金額
 控除額は勤続によって異なり、勤続が20年以下であれば「勤続年数×40万円(最低80万円)」で、勤続が21年以上であれば「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」が控除額となり、課税対象となる所得はその控除した額の半分となります。

上記の所得として共通されるのは所得税が言う「所得」とは「収入−経費」のことで、その収入を得るために、犠牲となった費用は原則、収入から差引かれ、残った金額を「所得」としています。収入には非課税扱いとされる金額は入っていません。最初の控除は10種の所得がそれぞれ規定する「費用」が控除として差引かれます。

このあと、税額算出の計算手順では「損益通算」があり、「総所得金額」の合算があり、過去の損失を相殺する「繰越控除」があります。
損益通算は不動産、事業、譲渡、山林所得の4つの所得で損失が発生した場合、他の所得から差引く手順です。差引ける所得は「利子所得」「配当所得」「不動産所得」「事業所得」「給与所得」「総合課税での譲渡所得」「一時所得」「雑所得」の8つ所得金額からで、それでも相殺できな場合は分離課税である山林所得、退職所得から差引きます。

損益通算後、差引ける8つの所得は合算して「総所得金額」となり、繰越控除は総所得金額から差引きます。ここまでの収入、費用、損失の精算までを「課税標準」とよびます。→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20140219

分離課税は源泉分離課税申告分離課税に分かれ、源泉分離課税は収入の受渡し時に課税額が徴収され、納税が完了します。申告分離課税は確定申告によって課税関係が精算されますが、他の所得とは原則、合算できず独立して計算し、税率も所得区分によって異なります。

この次に、担税力や社会通念に合わせた政策上の控除、これが「所得控除」に該当します。担税力は「税金を支払う力」で、例えば独身者より、子どもがいる家庭、あるいは母子家庭等の方が、収入から税金を支払う余力が乏しいのではないか、社会通念における製政策上の控除は、健康保険や年金の支払、傷病などに係った医療費、障害者についての配慮などをした控除です。

控除対象は所得控除であるので、殆どが対象となりますが、前述した総合課税を合算した「総所得金額」と、総所得金額から控除しきれない部分は分離課税から控除するため、総所得金額とこの対象となる分離課税を合わせた範囲を「合計所得金額」と言い、合計所得金額が所得控除の適用される範囲となります。

(B)この所得控除は次の14種があります。
(1)雑損控除・・・・・・災害や盗難などの損失(確定申告)→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131027
(2)医療費控除・・・・・年間の一定額を超えた医療費で、生計を一とする親族が対象。(確定申告)→
http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131107
(3)社会保険料控除・・・健康保険料、介護保険料、雇用保険料、厚生年金保険料など。(源泉徴収、年末調整)→
http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131109
(4)小規模企業共済・・・小規模企業共済の掛金や確定拠出年金個人型などの掛金、他。(年末調整)→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131111
(5)生命保険料控除・・・私的な生命保険や個人年金などの掛金。(年末調整)→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131121
(6)地震保険料控除・・・地震災害と地震が原因となる火災等を補償する保険。(年末調整)→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131125
(7)寄附金控除・・・・・税法上に規定された寄附金。(確定申告)→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131129
(8)障害者控除・・・・・所得者本人、または控除対象配偶者、控除対象親族が障害者であるとき。(源泉徴収、年末調整)→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131201
(9)寡婦寡夫)控除・・夫と死別などで寡婦、あるいは寡夫になった方。(源泉徴収、年末調整)→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131203
(10)勤労学生控除・・・・所得者本人が学生で、一定金額以下の所得であるとき。(源泉徴収、年末調整)→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131209
(11)配偶者控除・・・・・配偶者(妻)の所得が給与所得のみであるなら年間103万円以下の収入である場合、夫側の控除額は38万円。(源泉徴収、年末調整)→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131215
(12)扶養控除・・・・・・16歳以上で所得が一定金額以下である場合(源泉徴収、年末調整)→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131221
(13)配偶者特別控除・・・配偶者(妻)の所得が(11)を上回る場合、夫側の所得に段階的に控除が適用。(年末調整)→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131215
(14)基礎控除・・・・・・所得者すべてに38万円の控除。(源泉徴収、年末調整)

所得控除は、まず「雑損控除」から差引きます。差引く順序は前述した「総所得金額」から控除して、それでも損失があれば下記の分離課税(税率を乗じる前)の金額、上から順番に差引きます。
雑損控除を差引いた後も同じように順序で控除してゆきます。
・分離課税とした短期譲渡所得の金額(税率=×30%)
・分離課税とした長期譲渡所得の金額(税率=×15%)
・分離課税とした上場株式等の配当金(税率=×7%)
・分離課税とした上場株式等の譲渡所得(税率=上場株式は7%、以外は15%)
・分離課税とした先物取引による雑所得(税率=15%)
・山林所得の金額(5分5乗方式)
・退職所得の金額(超過累進課税

この「所得控除」のあと所得税の税率適用となります。
税率は総合課税である「総所得金額」では超過累進課税の適用で、分離課税では上記を参考にして頂き、残りの「山林所得」にしても5分5乗方式を考慮した速算表、「退職所得」も総所得金額と同じ超過累進課税です。
○総所得金額、退職所得に乗じる速算表
<課税される所得金額>          <税率>         <控除額>
・195万円以下・・・・・・・・・・・・・・・・5%・・・・・・・・・・・・・0円
・195万円超〜330万円以下・・・・・・・・・・10%・・・・・・・・・・97,500円
・330万円超〜695万円以下・・・・・・・・・・20%・・・・・・・・・427,500円
・695万円超〜900万円以下・・・・・・・・・・23%・・・・・・・・・636,000円
・900万円超〜1,800万円以下・・・・・・・・・33%・・・・・・・・1,536,000円
・1,800万円超〜・・・・・・・・・・・・・・・40%・・・・・・・・2,796,000円
○山林所得に乗じる速算表
<課税される所得金額>          <税率>         <控除額>
・975万円以下・・・・・・・・・・・・・・・・5%・・・・・・・・・・・・・0円
・975万円超〜1,650万円以下・・・・・・・・・10%・・・・・・・・・・487,500円
・1,650万円超〜3,475万円以下・・・・・・・・20%・・・・・・・・・2,137,500円
・3,475万円超〜4,500万円以下・・・・・・・・23%・・・・・・・・・3,180,000円
・4,500万円超〜9,000万円以下・・・・・・・・33%・・・・・・・・・7,680,000円
・9,000万円超〜・・・・・・・・・・・・・・・40%・・・・・・・・13,980,000円
(注)上記の課税対象となる所得金額に1,000円未満の端数がある場合は、切捨てで計算します。また、平成25年〜平成49年までは復興特別所得税として2.1%が上乗せされます。
国税庁東日本大震災により被害を受けた場合等の税金の取扱いについて→
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h23/jishin/tokurei/zeikin.htm

上記の計算は「所得額×税率−控除額」となり、順序通りの算出です。山林所得の「5分5乗方式」とは「 {(山林所得に該当する所得額×5分の1)×税率}×5 」で、上記の速算表は、その計算を含んでいます。

さて、上記の通り税率を乗じて計算した「算出税額」の後に控除があります。これは税率を掛けて税額から差引くので節税効果は大きいとされています。

(C)税額控除
税額控除は主に「所得税法」」と「租税特別措置法」の二つの規定から成り、所得税法からは「配当控除(総合課税の場合)」「外国税額控除」の二つで、租税特別措置法は確認できた分で19あります。
これらの税額控除は、項目ごとに控除額や控除額の計算が異なり、規定されています。一般的には配当控除や住宅に関する控除が多いのではないでしょうか。この税額控除についても後日に、もう少し詳しく案内したいと予定しています。

国税庁、所得控除→http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/shoto320.htm
★賃金計算の概要(給与計算)→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20130819
源泉徴収税額→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131023
★当ブログ0231免責事項をお読み下さい。→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20130102



★当ブログ0231免責事項をお読み下さい。→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20130102