0275 所得税79 譲渡所得9 譲渡に該当しない場合

前回では譲渡所得における譲渡の範囲を、大まかに学んできました。

今回は、資産の譲渡でありながら非課税扱いとなる規定です。
(1)生活用動産の譲渡による所得(所得税法9条1項)
生活に通常、必要とされる動産の譲渡。動産については所謂「モノ」で、「不動産や証券、様々な権利」以外になりますが、この「生活に必要」とは残念ながら定義されていません。衣服や家具は殆どの場合、生活に必要であると判断されるでしょう。仮に譲渡所得の対象になったとしても増加益が発生して課税されるケースは殆どありません。しかし、自家用車等が生活に必要とされるケースでは判定が分かれてきます。

健康な身体の方で、東京都内から通勤手段として自家用車が必要としていても、私鉄に地下鉄、バスもたくさん運行している。通勤している多くの方は公共の交通機関を利用している。このような環境において生活上必要なモノである、と判定されることは困難かもしれません。しかし、地方の過疎地で交通機関が何もなく、日常の買物さえかなりの遠距離であったなら、自家用車はその人にとって生活上必要なモノとして認められます。

生活に欠かせない動産の譲渡は非課税となりますから、過疎地に住んでいる方が自家用車を譲渡した場合は非課税となる可能性が高い、と言えます。ここで注意が必要なのは、非課税であることが必ず節税において有利であるとは限らないことです。

自家用車の譲渡が非課税とされれば課税関係は発生しませんが、生活上の必要性が認められず譲渡所得として課税される場合でも、売却によって損金が出ると他の所得から損金を相殺して所得税を計算します。これを所得税の計算では「損益通算」と言いますが、このようなケースでは結果的にその損金にあたる部分が節税されることになります。しかし、非課税となった場合には損益通算はなく、手間もかかりませんが損失を相殺することもできません。

(2)強制換価手続による資産の譲渡(所得税法9条1項)
これは前回のブログ0274譲渡の範囲(3)競売(4)公売、などが事例として該当します。借金の返済が滞り、相手側が担保物権である土地等を法的手続きによって強制的に競売にかけ、売却代金をその借入金の回収に充てます。これも譲渡行為として譲渡所得の範囲とされていますが、このような場合に借金をした側は「資力を喪失して債権の弁済が著しく困難」に該当し、非課税扱いとなります。

(3)公社債等の譲渡(租税特別措置法37条15)
ここで言う公社債とは、新株予約権社債と割引公社債の一部を除いた公社債、公社債投資信託、公社債等運用投資信託、貸付信託の受益証券、社債的受益証券が該当します。これらのは譲渡所得としては非課税扱いですが、保有期間中の分配金等は利子所得または配当所得として課税されます。

(4)国や地方公共団体に対して資産の贈与、遺贈(事実上の財産寄附、重要文化財等も該当します)した場合の譲渡所得(租税特別措置40条)
 この場合は、そもそも譲渡がなかったものとされます。

(5)相続税の物納による資産の譲渡(租税特別措置法40条3)
税金の納付は原則、現金による納付ですが、相続の場合で現金による納付が困難であるとき一定の要件を満たし、手続きの上、許可されれば物納による納付が可能となります。

物納による資産の価額は相続税上の評価額とされています。物納はそもそも納付に値するので当然非課税なのですが、物納で納付が完済された上で、その物納による換価が納付額より上回ると現金で還付されます。つまり、国が物納の財産を現金化したとき税額より多ければ余った分を返すのですが、この分は譲渡所得の対象となります(超過物納にかかるかご過誤納金)。この場合もまた特例等がありますので、税理士等の専門家の方にご相談下さい。尚、物納ではその納付までの期間に利子税が加算されます。

国税庁、譲渡所得の対象となる資産と課税方法→http://www.nta.go.jp/taxanswer/joto/3105.htm
大和総研投資信託の種類と課税方法→http://www.dir.co.jp/souken/research/report/law-research/tax/12112601tax.pdf
国税庁、国や地方公共団体又は公益を目的とする事業を行う法人に財産を寄附したとき→http://www.nta.go.jp/taxanswer/joto/3108.htm
国税庁相続税の物納→http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4214.htm
国税庁、超過物納に係る過誤納金に対する譲渡所得の課税→http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/joto/01/02.htm

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