0407 経験の継続

作家、村上春樹氏のエッセイの文中に「経済的な自立がなければ、精神的な自立はあり得ない」という言葉が出てきます。この意味は複雑さを秘めていますが、当ブログ0404で紹介したアメリカのワーキング・ママの事例では、日常の激務をこなしても自分の目指したキャリアを捨てず、果敢に仕事と育児に取り組みます。

彼女の選択が正しいかどうかは論じる対象でないにしろ、この選択によって様々なリスクが回避できることは間違いありません。彼女は何も贅沢をしたくて頑張っているわけではなく、子ども達がより良い選択ができる社会人として成長するには、より高い教育を受けることが欠かせないことを知っているからです。教育投資額と高学歴は、大雑把には比例しています。

加えて、夫が稼ぐ収入はどのような企業に、どういった内容の労働契約であるのかが問われます。その企業にその条件で採用されると、出生や昇給以外もはや給料はコントロールできません。その上、現在では将来が約束されている仕事と呼べるものは皆無です。専門性が高い医者や弁護士、公認会計士でさえも、何十年という長期的な流れの上では約束された収入を得ることは困難と言えます。

また、長いキャリアを築いてゆくとき、勤めていた会社の倒産やリストラ、怪我や病気、うつ病などの不安定リスクは夫婦互いに否定できません。仮に、彼女が専業主婦を選択した場合、夫にこのような不運が突然訪れたとき、彼女は長期的な視点に立ち、その問題を的確に、現実的に対処することは非常に困難になってきます。

彼女のようにキャリアを重視する選択は、結果的にはこれらのリスクを低減する役割があります。しかし、そのためだけに困難な道のりを歩むのでしょうか。他にも理由は多く考えられます。そもそも彼女は仕事が大好きで、職場も簡単に手放したくない理想に近い環境、職業的な成功を志しているかも知れません。
彼女は正しい選択をした。と評価できる箇所は、キャリア・プランの優位な構築です。以前にキャリア・プランとは「自分自身が仕事と向き合うこと」と書きましたが、もう少し具体的に表現をすると「資産の増加、資産の維持」です。

資産なんて用語を出せば会計的な意味が含まれる錯覚をしますが、ここで言う「資産」とは、土地や建物等の物的資産ではなく、培った経験や様々なスキル等の他人からは見えにくい「個人が獲得した能力」のことです。

例えば、転職時に企業へアプローチする履歴書や職務経歴書で学歴を知らせるには、高卒よりも大学卒、大学の中でも「東大卒」の方が評価は高くなります。もちろん様々な企業がありますから、どのような企業でも東大卒を欲しがっているわけではありません。しかし、一般的にはそのような評価となり学校歴優位と言えます。経理の人材を募集するとき、簿記2級の有資格者より税理士の有資格者である方が、税理士の有資格者の中でもより豊富な経験を持つ方が有利であるのです。

この「人が獲得した能力」には様々な物が含まれています。資格取得は「専門性」で、その分野でのレベルが評価、あるいは第三者に対して能力を担保されるわけですが、対人能力で言えば資格等の専門的なスキル以外に、広く捉えると「愛嬌」や「気配り」等も立派な能力であり、場合によっては必要不可欠な能力である、そう言った場面も出てきます。

企業が人材を評価するときに一番重視するところは、職業的な「経験の継続」です。これは転職等の中途採用の評価に限らず、社内の人事評価においても誰がどのような部門で、また、職業的にどのような経験による能力が構築されているのか、そこが問われ、評価されることになります。
転職では、この「経験の継続」がいちばん重視されます。採用先である、相手側の企業は転職の場合「即戦力」が採用ポイントで、どのような職種、どのような規模の企業、どの程度の役職で仕事に従事していたのか、そこが重要となります。

しかし。経験の継続に該当しない場合、つまり、職種や職業そのものを過去の職業経験と無関係な仕事を選択するようなケースでは、選択した仕事に対する意気込みや熱意、思い入れ、それを裏付ける行動、例えば資格を取得した、専門学校に通って基礎的なことを学んだ、セミナー等で勉強した等を用意する必要があります。
過去の仕事の経験、経験の継続は履歴書、職務経歴書などで相手に伝えることになります。自分が好きになれなかった仕事であっても、自己評価が低い内容であっても、相手には経験をしたことが、あなたの能力評価と直結するのです。

★総合案内ビジネスていレベル研究所→ http://d.hatena.ne.jp/sotton+sogou/
★当ブログ0231免責事項をお読み下さい。→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20130102