0436 転職のスキル、準備編33 EQ

さて、これまで「対自己能力」についての案内を綴ってきましたが、次項から「対人能力」へ移ります。しかし、その中間に位置する、比較的新しく認知された能力「EQ」について少し触れておきます。今日も、おそらく将来的にもかなり重視される能力で、「心の知能指数」とよばれるこの能力は、周囲の者からの信頼を得る重要な役割を担っています。

<(20)EQ>
本題は「Emotional Intelligence」で「心の知性」ですが、1995年に著者、ダニエル・ゴールマン(元ハーバード大学教諭、ジャーナリスト)が、この本を発表したとき、アメリカの雑誌タイムズ誌がIQとの比較でEQ「Emotional Quotient(直訳すると感情の比率)」として特集を組んだことから、日本でのタイトルは「EQ心の知能指数」となっています。

日本で発売されたときも大きな話題となり、かなりの発行部数を記録しました。冒頭では「情動のハイジャック」と呼ばれる状態、激高して暴力的になり、自分の実の子どもさえ殺してしまうという、常軌を逸した状態に感情が陥ることを解説しています。医学的にも「扁桃核」という大脳の一部にある神経核が、他の脳機能や身体機能との連絡連携が遮断されて起こるとされています。この書籍「EQ」は、感情が起こす行動を実例と共に様々な解説と、それを裏付ける医学的アプローチとで構成されています。

IQはいわば「処理能力の速さ」で計算や理論、分類といった数学的思考の高さを示すもので、現在の学校教育や試験はこのIQを中心に考え、構成されていました。大学の入試に関してもそうです。しかし、実社会においてIQの高さと年収や幸福度は一致しないことが追跡調査などで確認されています。また、企業の人事においてもIQの高さに比例して実績が伴うこともなく、IQ以外の評価が必要とされ、それがコンピテンシーやEQへと変化をもたらしています。現在から近い将来にかけて学校教育も変化を求められ、企業は学校歴とそれ以外の能力、コミュニケーション能力と謳っていますが、この実体はEQと言えます。

EQが対自己能力と対人能力との間にあることは、EQの能力そのものは多岐に渡り限定されておらず、「その場面での適切な感情」という点で、適切な感情とはコミュニケーションでの相手に、あるいは集団で変化してゆく状況の中で、その場に応じた感情をコントロールする必要が出てきます。

この時、自分の感情は相手のために在ります。これが対人能力にあたりますが、面白いこと言って場を盛り上げたり、叱り方や注意の仕方、論理的な説明、相手とって不愉快なことを伝える時も、相手や周りの人達にとって、自己の感情をコントロールしてより良い状況を創ってゆくのです。この自己感情のコントロールが対自己能力となります。

EQは普段、仕事においても日常生活においても自然に対応していることですが、自分が興奮していたり、相手が興奮状態にあるとき、適切な感情の制御や在り方とはどうあるべきなのか。自己の感情を優先させるべき場面であるのか、相手の感情を冷静に受止め、尚且つ自分の意思や感情を相手に受止めてもらうことは簡単であろうか?仕事でチームを組みそのリーダーであるとき、場の引き締めや統率を自分の力でできるだろうか?

相手の感情に気づき、同時に自己の感情にも気づき、その心の状態を適切な言葉で認識し、その場の感情はどうあるべきなのかを模索し、これらの感情の在り方を日々トレーニングするしかありません。自分は何に対して嫌悪感を持ち、腹が立ち、イライラすることはどういう状況で起こるのか、その起因は何であるのかを知る必要があります。そうして、そのような感情になるであろうことを予測し、認識や価値観の変革、フレーミングを訓練し、適切な感情コントロールを行い、相手を受止め、あるいは相手に感情を知らせ、関係を構築、あるいは修正してゆくのです。

勘違いしていけないのは、決して相手の言いなりになることではありません。相手の態度を是正し、怒る必要があるときは怒って良いのです。ただ、このとき怒りに任せて感情が激高し、激怒を繰返しても結果は互に嫌悪だけが増すだけです。どういった感情を持って、どのように怒るのかが問われる、と言うことです。実に厄介な訓練といえます。

この感情の適切な把握、表現については、そのレベルについても区別しておく必要が生じます。例えば「悲しい」という感情表現では、単純に映画やTVドラマを観て、感情移入によって起こる悲しみ、信頼していた友人に裏切られた悲しみ、家族や愛する人を失った悲しみ、これらは「悲しい」という表現で括ることはできますが、その質や程度にはかなり差異があり、大きな開きがあります。映画やドラマを観た悲しみは、時間経過によって次第に薄れ、あるいは忘れ、その場の自己感情の代用と言えます。友人に裏切られた悲しみは、憎悪、落胆、孤独を生みだす悲しみ、愛する人を失った場合、はかり知れない痛みを伴い、人生が退屈になり、絶望感に支配されます。これは個人的な感想、感覚なので正しい表現はありませんが、悲しみという内容に差異があることは誰もが同じであるはずです。

このような感情レベルの把握や言語の置き換えも大切なトレーニングと言えます。

このEQトレーニングは日々努力をする価値を充分に備えています。仕事上の集団や組織、上司や部下、先輩と後輩、あるいは友人関係、家庭環境や夫婦生活でも、ありとあらゆる人間関係では、このEQの高さが良好な関係構築に深く関わってくるからです。そうして、この自己のEQの成長によって、人生の起こりうる不幸や不運を予防できるかも知れません。

EQ こころの知能指数 (講談社+α文庫)

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