0458 転職のスキル、準備編55 コミュニケーションスキル3

(1)聞き手の決定権
「聞き手の決定権」と聞けば、ピンとくるのではないでしょか。

あなたが相手に伝えるべき内容を、分かり易く論理建てて説明し、言葉を的確に選び、重要な部分を繰返し伝えても、その内容がどのようにどの程度伝わり理解されたのかは、相手に委ねるしかありません。つまり、理解のレベルは結果的に相手が決めることとなります。このことを「聞き手の決定権」と言います。

誰であるにせよ、話しを相手に伝える時、このことを充分に配慮しなければなりません。そして配慮と同時に、相手の理解度が結果のすべてであることを肝に命じておく必要があります。

例えば、今こうしてあなたが読んでいるこのテキストは、どのような姿勢で読んでいるのでしょう。
テキストを複数の人に配布して、ひとりはテレビを観ながらビール片手におつまみをポリポリしながら読み、もうひとりは熱心にテキストを何度となく繰返し読み、おまけにノートにまで重要な部分を転記しているような場合、どちらがより深く理解に至るかを問えば、必ず後者と答えるでしょう。このようなことは例えたテキストのみならず、普段の会話の中でも似たような差異が起こります。

さて、この「聞き手の決定権」による、言わば「伝わった度合い」は何も「会話」だけではありません。自分以外の他者に対して伝わる、あるいは伝えたいことは、会話から生じた話しの内容以外のことも全てが相手に委(ゆだ)ねられ、決定づけられます。

服装や髪型などの身だしなみで印象が決まり、あなたがいくら誠実に話しでいても、相手側が誠実さを感じなければ、あなたは誠実ではありません。

同様に、知識や能力にしても他者に認めてもらうことが大切で、そこが難しいと言えます。「あなたの人格はどこにあるか?」と言う問いも、相手の頭の中にあり、相手があなたの人格を決定するのです。詐欺師はこの法則を熟知氏、利用します。相手の頭の中に誠実で信頼のおける人格を作り上げるのです。

知識にしても、能力にしても自分で努力をして獲得したものであり、人格形成も自らが育んだことでありながら、決定づけられるのは相手、他者であり、ここがコミュニケーションの落とし穴、難しいところです。

作家、有吉佐和子さんの小説で「悪女について」という作品は、亡くなった一人の女性を、生前どのような人物であったのかを、彼女を知る複数の人達にインタビューをして尋ねてゆきます。この小説は絶妙な面白さで、インタビューをした約20名の人達から伝えられる彼女の印象やエピソードは、始めは小さな差異なのですが、少しずつ部分的な違いを見せ、やがて彼女の恐ろしい性分が見え隠れしてゆきます。小説の構成も見事なのですが、「人格は他人の頭の中にある」という前提が下敷きとされ、小説の中の彼女と接した他人だけではなく、現実的に、誰もが多かれ少なかれ同じ差異が起こっているに違いありません。

このように聞き手の決定権とは、自分が話しを相手に伝えるときに差異が起こり、差異とは内容の理解レベルや変容のことで、それは受け手である相手に委ねられ決定づけられる、と言うことです。つまり、コミュニケーションとはそもそもリスクの高い行為なのです。

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