0061 コンピテンシー(ディ −11)

前述したようにキャリアデザインが個人の仕事構築に活用する教育であるなら、企業側にも、社員や新規採用の人事的評価にあたる手法として「コンピテンシー」とよばれる能力評価があります。
キャリアデザインから学ぶ基礎力、これは人の様々な能力を区分して識らせてくれます。一方、コンピテンシーの評価分類もこのキャリアデザインで学ぶ人間の能力区分と似かよっています。


コンピテンシーは70年代にデビット・マクレランドというハーバード大学の心理学部教授が政府から「外交官が同じ基準で採用しているにもかかわらず、個人差が著しい」と格差が生まれる根拠となる要因を探るように依頼を受けたところから始まります。
コンピテンシーの定義は「高いレベルの成果を安定的に出せる能力、その行動特性」となっていますが、この評価する能力分類は、キャリアデザインで学ぶ、分類とかなり近く、重複している要素もあります。

コンピテンシー自体は2000年前後に大企業を中心として、人事評価を礎といた配属、採用、育成などの活用に広く導入された経緯があります。ある種画期的でもあったのですが、デメリットも多かったようです。これは導入規模にもよりますが、費用と時間はかつてない程の負担となったはずです。それから、20項目に及ぶ能力の評価区分、加えて、一つの能力に対して、何段階ものレベル、これらを評価する者(アセッサー)の育成、これには専門家による学習やトレーニングがかなり必要とされ、そのアセッサーによる評価、それによって成される結果は、やはり不確実なものだったようです。
 備わっている能力を、いかに発揮するか、発揮できるかについては、そこにも本人のモチベーションや環境、権限や待遇が関わってきます。能力を発揮できる状態を維持することも能力の一部であります。人の心理や行動は、長期的になるほど完全にコントロールできるもではなく、かなり流動的であり、価値観も少しずつ、あるいは劇的に変化する場合もあります。こう考えると、人が人を平等に評価するという行為自体、無理を前提に計画する必要があるでしょう。
 

個人的な見解を言えば、企業は「評価」より「育成」に力点を置いた方が、有効だと思っています。具体的には、このキャリアデザインを各個人に学んでもらうこと、そしてもう一つは、OJT、現場教育。これは指導する側、教える側の「教え方」を学ぶ、これに尽きます。
新人が入ってきて、何も教えず「見て学べ」的な指導をすると、新人の様々な負担は大きくなります。これは教える側の先輩達がラクをしていることになります。

現場で教える先輩達の教え方が上手ければ、つまり「教え方」をスキルとして学んで獲得すれば、新人達の負担は軽減されます。
新人達に即戦力を要求するなら、できるだけ早くに「理解と馴れ」を獲得してもらうことがゴールなのですから、教え方のスキルは大切な能力となるべき価値はあるのですが、残念ながら、ここの教育改善は皆無に等しく、「見て学べ」の現場がほとんどのようです。