0143 老齢厚生年金4 特別支給の支給額(報酬比例部分)

老齢厚生年金の支給額算出は、まず65歳未満の特別支給の報酬比例部分について解説しますが、本来の規定、65歳以上の老齢厚生年金も算出方法はほとんど同じです。定額部分が経過的加算により、異なる計算がありますが、結果的には同じ額になります。ちょっと難しい感じがしますが、特別支給も規定通りの老齢厚生年金も同じと思って下さい。

老齢厚生年金の65歳未満の支給にあたる、「特別支給」の報酬比例部分、その支給額計算式は以下の通りです。
1,「平均標準報酬月額」 × 「生年月日に応じた乗率」 × 「平成15年3月以前の被保険者期間の総月数」
2,「平均標準報酬額」  × 「生年月日に応じた乗率」 × 「平成15年4月以前の被保険者期間の総月数」
平成16年改正後の本規定での支給額計算では、上記の1+2が支給額となります。

3,「平均標準報酬月額」 × 「生年月日に応じた乗率」 × 「平成15年3月以前の被保険者期間の総月数」
4,「平均標準報酬額」  × 「生年月日に応じた乗率」 × 「平成15年4月以前の被保険者期間の総月数」
現在の支給額算出には本規定である計算式は使用されていません。つまり、上記1+2ではなく、経過措置として次の式が使用されています。
「 上記の(3+4) × 1.031 × 物価スライド率 」となっています。

まず、標準報酬月額とはどういうものなのか?については、このブログ「0128厚生年金4」→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20120425を参考にして下さい。
そして平成15年3月以前(この時までは、納付保険料の計算にはボーナスを含まない)の平均標準報酬月額の算式は→
「被保険者期間の標準報酬月額の総計 ÷ 被保険者期間の総月数」で、
平成15年4月以降(これ以降は、納付保険料の計算にボーナスも含まれています)平均標準報酬額の算式は、これにボーナスも加算されますから→
「被保険者期間の(標準報酬月額+標準賞与額)の総計 ÷ 被保険者期間の総月数」となります。
※ 「平均標準報酬月額」と「平均標準報酬額」うっかり同じと見てしまいますが「月」の有無、平成15年3月以前と4月以降で分かれていますので注意!

標準報酬の額は、昔になるほど現在の賃金水準に比べて低い傾向にあります。低い賃金のままで、標準報酬額の計算をすると、現在の価値からすれば不利が生じます。それを是正するために、過去の賃金水準、標準報酬額の見直しを行います。このことを「再評価」と言います。

再評価は「再評価率」として、5年ごとに見直しをしていましたが、平成16年以降は毎年、受給権者の生年月日に応じた率を改定されることになっています。改定基準は名目手取賃金変動率を基準に行われ、68歳以上の受給権者には物価変動率が基準となって改定されます。

さて、もう一度、支給額の計算式を見て下さい、不思議に思うかも知れません。1と3、2と4は全く同じ式ではないか?と。
そうです、同じです。わざわざ4つに分けたことは意味があります。それは「生年月日に応じた乗率」の箇所、つまり乗率が分かれているのです。

本規定である、1は総報酬制前の新乗率、2は総報酬制後の新乗率。

経過措置である、3は総報酬制前の旧乗率、4は総報酬制後の旧乗率。

上記の4通りの乗率が存在し、それぞれが生年月日によって乗率が異なります。旧乗率より新乗率の方が低い値になっています。

平成12年度の改正で「5%適正化」という言葉がよく出てきます。給付水準5%減額(正しくは減率)とも表現されています。これは老齢厚生年金の給付額、その報酬比例部分の計算過程にある「給付乗率」(上記の式でいえば、生年月日に応じた乗率の箇所に当たります)の5%カット、つまり旧乗率に95%を掛けた値になります。

総報酬制前の旧乗率の場合、1000分の7.5〜10なので、5%適正化の新乗率は7.5×0.95=7.125、10×0.95=9.5なので、1000分の7.125〜9.5になります。
総報酬制後の旧乗率では、1000分の5.769〜7.692で上記と同様の95%を掛けた新乗率では1000分の5.481〜7.308になります。これらのことが、前述した乗率の4通りの内容です。

※乗率の幅は生年月日で段階的に異なります。例えば、総報酬制前の旧乗率の場合、大正15年4月2日〜昭和2年4月1日生まれの方が1000分の10に該当し、昭和21年4月2日以後生まれの方は、1000分の7.5になります。

平成16年の改正、「総報酬制前、後」として本規定とされ、平成12年改正時ではこの総報酬制は定められていませんでした。

しかし、この平成12年改正の5%適正化された乗率は、実際には殆ど使用されることはありません。このとき経過措置として「従前額保証」をしたからです。「従前」とは「今まで通り」という意味なので、ここでは改正前の値、旧乗率が適用されます。正確には、新乗率、旧乗率、どちらか有利な方ですが、殆どの場合、旧乗率である従前額の方が高い額になります。

つまり、報酬比例部分の支給額算出では、例外的な場合を除き、上記の「3」「4」の算式で計算されます。

それから、この「3」、「4」の算式にでてくる「1.031」と言う、謎の数字は平成6年〜平成11年までの物価変動率を足した値です。平成12年の改正時で、平成6年と比較して1.031倍に価値が上昇したと言って良いでしょう。

どうしてこんな数値を乗ずるのか?

それは、従前額保証において旧乗率を適用して計算する場合、基になる平均標準報酬月額と平均標準報酬額の算出には、平成6年時の再評価の値で計算しなくてはならない規定があるからです。

上記の規則から結局、現行の老齢厚生年金の給付額を計算するには、
1, 平均標準報酬月額と平均標準報酬額には平成6年時の再評価の値で算出する。
2, 生年月日に応じた乗率では、平成12年改正前の旧乗率で計算する。
なので、
A : 平均標準報酬月額(平成6年再評価の値で)× 生年月日に応じた乗率(旧乗率)
      × 平成15年3月以前の被保険者期間の総月数 
B : 平均標準報酬額(平成6年再評価の値で) × 生年月日に応じた乗率(旧乗率)
      × 平成15年4月以降の被保険者期間の総月数
そして、( A + B ) × 1.031 × 物価スライド率(毎年変動します)
    = 老齢厚生年金の報酬比例部分の支給額
と、なります。
やっと出てきた算式ですが、もう何の数値かわかりません!

厚生年金基金の場合、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給は、その基金の代行部から支給されます。基金の支給額計算も老齢厚生年金に基づいて算出されますが、その計算は異なってきます。これは加入されている厚生年金基金によっても、算出条件や支給額は異なります。一般の老齢厚生年金の支給額より更に1%〜15%程度の上乗せがあり、より複雑な計算になるため、支給額についての内容は、あなたが加入されている厚生年金基金の団体に、お問い合わせ下さい。

公的年金の計算の中でも、この辺りの計算が一番複雑ではないでしょうか?

年金の専門的な勉強をされている方は、理解して憶えておく必要があるかとは思いますが、一般の方が理解して自分で計算する必要はありません。自分の支給額を知りたいのであれば、年金事務局や年金ネットで問い合わせ、相談等をする方が簡単で早く、しかも確実です。

年金制度を細かい部分まで知ることは、かなり骨の折れる作業と言えます。従って、自分が損をしない程度、大雑把に制度を把握していればOKです。「全く知らない」では困る場面もあるでしょう。ですので「ちょい知り」ぐらいで!
 
尚、算式で「生年月日に応じた乗率」そして、その旧乗率や新乗率は「老齢厚生年金乗率表」で→http://www.kimoto-sr.com/ro_hyo01.html
あるいは年金の類の書籍などでは、一覧表として出ています。

日本年金機構、特別支給の老齢厚生年金について→http://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=3748
日本年金機構、年金額の計算に用いる数値→http://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=3899

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