0210 所得税20 配当所得5 配当所得の性質

税法が規定している配当所得の範囲や、それを裏付ける配当の性質を理解することは容易ではありません。また実際に課税方法を選択することさえ、困難です。源泉徴収の対象所得であり、総合課税、申告分離課税源泉分離課税、特定口座の申告不要制度、そしてそれらに付随する様々な特例の多さ、これはもう、一つひとつ理解することは、その道の専門家や専門職、あるいは教授を志す方に委ねるしかありません。

しかし、この配当所得という細胞を顕微鏡で覗き、その小さい末端の働きまで調べなくとも、全体の色や形くらいは知っておくべきでしょう。
 
まず「配当」や「分配」と言うのは、企業が経済活動を行い、大枠では、その結果である利益を株主に還元することを指しています。問題となるのは、その利益の分配金が、資本にあたらないか?ここで言う資本とは、株主が出資した資金の払い戻しに該当しないかどうかです。

会社法企業会計のルールでは、この純資産にあたる部分の区分けを厳格に規定しています。会社法と税法上のルールは一致しませんが、配当や分配にあたる通常の判断は、会社法での会計ルールを参考に考える方が理解し易いでしょう。

しかし、例えば「蛸配当(タコは腹が減ると自分の足を食べることから)」と言われる、粉飾行為(本当は利益が出ていないのに、利益があると見せかけて配当すること)は、会社法上では違法に当たりますが、所得税法での判定は、通常の配当と同じく課税されます。

税法ではこのようなことが殆どで、例えば他人の物を盗んで収入を得る行為はもちろん違法ですが、違法行為が明らかなので所得に該当しません。とは、ならないのです。
収入を得る手段に規定はなく、他の法律が優先されることなく「儲け」があれば、それは一旦「所得」と認めて課税し、後に裁判等で違法が確定すれば、手続きによって正当性が検討され、徴収した税金を必要ならば返す、という流れです。簡単に言えば、何でもかんでも「儲け」があれば取る主義です。

配当とは別に、多くの企業では株主に対して「株主優待制度」となるものがあります。この株主優待は様々な物がありますが、これは利益の分配に当たらないとされています。損益計算での利益とは無関係に支払われるもの、そのような解釈となっています。

企業が生み出す利益、その利益から株主へ配当として還元されるわけですが、この利益は法人税を支払った後の利益、いわゆる税引き後の利益を、利益処分として配当にあてるわけです。そして各投資家に配当金が渡れば、今度は配当所得として課税されます。この二重課税の要素から、配当控除という税額控除が、制度として設けられています。

配当控除の適用を受ける場合、総合課税を選択しなくてはなりませんが、仮に税額控除の優遇を受けても、総合課税では超過累進課税のため、課税総所得(一定の控除が行われた後の所得)が330万円を超えると税率は20%となります。これに対して、分離課税や源泉徴収では15%(平成25年末までは特例で7%)ですから、総合課税を選択しても有利になるケースは年収が450万円前後を下回る場合に限られてきます(※ただし、様々なケースがありますので「必ず」ではありません)。この額は丁度、一般的な平均年収にあたります。

しかし、総合課税を選択して、配当控除を受けたとしても、その額がかなり少額であるのなら、特定口座を利用した納税の方が、計算や手続きの手間が省略でき、これはかなりの得と考えて良いでしょう。

特定口座や分離課税での配当所得が、税率15%で設定されているのは、利子所得の税率と関係しています。金融商品から得られる経済的利益に対して、その課税される税率によって、金融商品本来の性質を損なわないように、平等に課税する側面があります。もちろん政府の政策的税制によって、特例により期間的な税率は変更がありますが。
 
一般的な税金の本を読んでいると、その殆どは配当所得について上場企業での株式等を前提として書かれています。このブログも同様に上場企業を前提として配当所得の項を書いています。上場企業の株式を保有する個人投資家の多くは、企業の外部者なので、前述した二重課税の問題を直接的に影響することはありませんが、非上場企業や、小さな同族会社等では、自社企業の株式を経営者ならびに、経営者の家族や親族がほぼ全ての株式を保有している場合が多く、その場合は、この二重課税の影響をそのまま被ることになります。

また上場企業でもストックオプション(社員持株制度)では、様々なケースが想定されます。一般的には配当は配当所得、保有(権利行使時)では給与所得、売って現金化すれば譲渡所得として区分されていますが、税制上の優遇がある適格ストックオプションでは、また条件が異なってきます。

利子所得と配当所得の違いで言えば、配当所得には「みなし配当」と呼ばれる判定があります。これは通常の配当と異なり、合併や分割時に起こる、株主への交付金等が該当しますが、本来の配当の考え方と同様で、出資金の払い戻しではない、利益の分配に相当する部分が課税対象になるのです。

この「出資金」と「利益」は企業会計ではどのように取り扱われるのかを次回、簡単に見てみましょう。


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