0342 所得税144 経常所得と非経常所得

我が国、日本の所得税の徴収システムをみてみると、簡単とはとても言えない、かなり複雑なものとなっています。
所得税とは個人における収入、その様々な収入に対して、どのように課税するべきかを定めたものです。

では「収入」とは何を指すのでしょうか?それは働いて得た「お金」もそうですし、親や他人から貰った「お金」や「物」、例えば、自動車に自転車、土地や建物など、あらゆるものが挙げられます。これを会計的に説明すると「資産の増加」にあたります。

税金を徴収する根拠は、個人の「資産の増加」で、つまり「資産が増えたのだから税金を払うくらい余裕があるでしょ」と言うことで「資産の一部をいただくわ」というのが課税なのです。そうやって徴収された税金は結局、様々なかたちを変えて国民の生活に還元されることになります。

さて、税金を徴収する根拠が「資産の増加」であっても、収入そのものに課税するのは適切だろうか?例えば、サラリーマンであるなら毎月、労働の対価として「給料」なるものを頂戴します。しかし、給料の中には役職手当や家族手当、残業代など様々な手当の中には「交通費」があり、交通費は職場へ行くための費用で、収入として受け取っても自由に使えません。言い換えれば、その収入を獲得するために犠牲になった出費です。ラーメン屋さんを営んでいれば、売上(収入)から材料費や店舗に係る経費を差引いて残った金額が利益となり、課税上の所得とは「収入−費用=収益(利益)」のことを意味します。会計的に言えば「純資産の増加」にあたります。

課税上の所得は、その収入の発生源(源泉)を根拠に10に区分されています。「利子所得」「配当所得」「不動産所得」「山林所得」「事業所得」「譲渡所得」「給与所得」「退職所得」「一時所得」「雑所得」。

利子所得、配当所得は資産運用で、自分資金を銀行に預けたり、投資したりして得た収入で、不動産所得は土地や建物等を利用して得た収入、山林所得は伐採した山林を売って得た収入、事業所得は個人で店等を経営して得た収益で、譲渡所得は様々な資産を譲渡によって得た差益、給与所得は労働の対価、勤めて得た収入、退職所得は長期的に勤めた報酬、一時所得は賞金等の偶発的に得た収入、雑所得は前述した9つの所得以外の収入となっています。

これらの10種の所得は論理的に整然と区分されているわけではありません。政策的な意図から、その収入を獲得した基因と担税力を考慮して区分されています。

例えば、サラリーマンなどが毎月受取る給料と、定年のときに受取る退職金とは労働の対価という収入の発生原因は同等であっても、退職金は一般的に老後の生活資金の確保という点では意味が異なり、担税力(税金を支払えるであろう余力)等が考慮されて区分されています。

また、株式なども保有期間中の配当による収入は配当所得(一定の条件有)となりますが、その株式を売却して得た収入は譲渡所得として扱われます。配当は、企業に出資した資金を、企業側が活用して得られた利益の分配であるのに対し、譲渡はその株式の売却益が収入の基因とされます。

譲渡所得の譲渡は所有権の移転を指しますので、様々な事象が対象とされます。その上で例外や特例措置などを設け、譲渡所得として扱われます。パソコンショップがパソコンをお客様に売ったときも、性質的には所有権の移転となり「譲渡」に該当する意味で違いありませんが、税法上では「棚卸資産の譲渡」は譲渡所得として対象外とされ、親が所有する土地や建物を、子に譲り渡すことも「譲渡」に違いありませんが、課税上は「相続税」に該当します。また、物でない権利の移転も対象になります。

こうして所得区分をみると、利子、配当は提供した資金に対する報酬、不動産と山林は資産の活用に対する収益、給与と退職は労働の対価、一時は例外的な収入、雑所得はどこのも該当しないもの、なので前述した8つの区分は理解し易いのですが、譲渡は殆どの取引が譲渡の意味を持ち、それを税法でルールを作り仕分けする形となっています。その上で譲渡所得の課税は「手にした時と手放した時の差益」であるため、その計算も単純とは言えないもので理解が困難となってきます。

そして、より複雑にする区分は「事業所得」です。事業所得は収入の発生根拠が資産の活用や取引ではなく、納税者の職業的な立場が発生根拠と位置づけているため、他の所得区分と重複することが数多く出てきます。例えば、事業主が株式の配当を受けたとき、あるいは売却したとき、不動産の活用を事業として行ったとき、山林の伐採による売却も、複数あった店舗を他人に貸したり売却したりした場合の収入は、どのように区分けしてどのように計算して納税するのか、そういった問題が事業所得には発生してくるのです。

10種の所得は総合課税として合算して税率をかけて算出するものや、分離課税として独立して算出を行うもの、源泉徴収のように受取り時には徴収が完了しているもの、様々な課税形態があります。

総合課税では、譲渡所得などで生じた損失を、他の所得と相殺する「損益通算」や次年度に損失を持越して相殺する「繰越控除」などの制度も設けられていますが、この計算にしても多くの規定が存在します。

また、10種の所得を別の角度から見て分類すると「経常所得」と「非経常所得」とにも分けることができます。経常所得は、収入の性質が1年の間に定期的に必ず起こるもので、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、事業所得、雑所得が該当します。非経常所得は不定期、あるいは突発的な収入で、譲渡所得、退職所得、一時所得、山林所得がこれにあたります。この経常所得と非経常所得の考え方は、損益通算などで役立ちます。

この他に、次回に予定している変動所得と臨時所得があります。名称だけ聞くと非経常所得グループに属する一時所得のような気もしますが、経常所得グループに属する所得でありながら、収入に偏りがあったり、突発的である性質の収入を言い、累進課税では所得額が多いほど税率も高いので、大きく偏りがある収入、例えば野球選手の契約金等は、一度に課税すると税率が高くなるので、契約期間に当てはめて収入を平均化して算出します。このような経常所得で特殊な収入が対象とされています。

★給与計算と所得税http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131229
★上記文中の「総所得金額」については当ブログ0334所得控除の計算手順を参考にして下さい
http://d.hatena.ne.jp/sotton/20131223
所得税の課税方法→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20120909
所得税の計算手順→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20120917
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