0186 税金3 格差と消費税

日本も「格差社会」と言われて久しいですが、資本主義であれば当然、格差はセットになっています。つまり格差が起こることを前提としているわけです。

格差の根拠として、よく利用されるのが「ジニ係数」と「相対的貧困率」です。

ジニ係数は、0〜1の間の数値で表し、数値が高いほど格差が激しいとされます。算出式をみると極端な高低差、異常な数値などに、引っ張られる計算結果になっています。従って収入の高低差が激しい程、数値は高くなる傾向があるので、日本では収入の高低の格差は、それ程ひどくないと言えます。

相対的貧困率は、OECDが定義して算出式もありますが、イメージでいくと「平均収入の半分の収入」に該当する人の多さ、です。もちろんこんなに単純ではありませんが、平均年収が500万円だとすれば、年収250万以下の者の比率が高い、そんな感じです。これは収入額の高低差ではなく、所得額による人口(量)の多さが現れてきます。つまり日本の格差の問題は所得額の高低格差ではなく、低所得者の人口比率が高いことに問題があるようです。

隣国、中国の内陸にある過疎の村で農業を営む主人の年収は、日本円で年収約2万円。一方、経済特区での実業家の年収は約60億円。収入額格差は30万倍。アメリカのある銀行では、上位400名のウルトラリッチと呼ばれる富豪の預金額と、残り全員の預金額がほぼ同じ。この話が事実かどうかはあとにして、このような事を耳にすると「ひどい格差」と思わず心の中で呟くでしょう。そして日本はそれ程ひどくない、と安心するかもしれません。

しかし、経済的貧困を救済する手っ取り早い方法は、金持ちを利用すること。金持ちが多いほど、救済手段は簡単にみつかります。厄介なことは、もし金持ちがいなければ、貧困の救済は「自助努力」という極めて難しい問題が待っています。日本の低所得者層の拡大は、この厄介な問題に近づいています。たいして余裕のない小金持ちが、気がつけば貧困になった人達を救済する構造。極端な話をすれば、年収600万円の人が、年収300万円の人を救うのです。

先日、消費税の増税が結局は実現しつつありますが、まあ今の財政では何かしら税収を上げないと、もたないのが実情です。しかも確実かつ至急に!と、なると消費税の増税がいちばん計算し易い財源確保の手段となります。しかし、この政策はかなりの疑問点をそのままにして出発したことになります。

例えば、消費税率は現在5%で、欧米諸国と比較して、税率が低いとされていますが、確かに税率だけ見れば低いのですが、税収全体からみる消費税額の割合は、日本は少なくありません。つまり諸外国は、消費税率が高率であっても、他の課税は日本と比較して少ないものがある、と言えます。

もう一つの疑問は「消費税が誰もが平等に払う税」というような言い方です。おそらく、このことは「物やサービス」に対して税率が一定であるので、そんな表現をしているのでしょう。1万円の靴を買えば、5%の税率で消費税は500円。誰が買っても買った物が1万円であれば、課税額は500円。「みんな平等でしょ!」って具合です。

しかし、この表現に違和感を憶える方は多いと思います。それは消費税の性質が「担税力」と直接関係を持たないからです。担税力とは税負担の力、税金を支払う能力、つまり経済的に優れている人。俗に言う「金持ち」であればある程、担税力は高いことになります。

靴の買い物の話でいけば、年収240万円の人が1万円の靴を買って、5%の消費税を払うと500円で、月収は平均20万円ですから500円は月収の約0.25%にあたります。けれども年収1200万円の人が同じ靴を買った場合、500円の消費税額は約0.05%にしか過ぎません。年収が1:5なのですから、消費税を負担する比も当然1:5になるわけですが、問題は収入額からの課税をみた場合、年収240万円の人が、年収1200万円の人の5倍の税率を掛けられたことになります。

もちろん収入の多い人と少ない人を比較すると、購買傾向も違いますから、単純な比較だけで説明はつきません。高収入の方は、買い物の量も多いでしょうし、個別の商品もより高級となって、結果的には消費額が大きいため、消費税額もたくさん納めることになります。一方、低収入の方は低額の商品購入の傾向になります。先の靴の話でいけば2000円の靴で消費税額の比が同じになります。つまり消費税は定率なので、収入と購買が比例すると支払った消費税額も比例することになります。

こうなると話は消費になります。この消費に関する問題は、量や質は自己判断でコントロールできますが、商品単価は変えられないと言うことです。例えば、電気やガス等の光熱費は、節約で使用量を制限することはある程度可能であっても、単価そのものはほぼ変えることができません。消耗品についても、ゴミ袋や洗剤などは販売店や売り出しによって価格の違いはあっても、高収入の人が収入に比例した高額の洗剤を購入することは考えにくいのです。アイフォンが欲しくて購入すれば、アイフォンそのものの商品価格は販売店で多少の違いがあっても、基本的には商品代や通信費は収入格差に関係なく同じです。

消費税の問題は、消費税率が誰にも同率なので平等に捉えることができますが、実際には低所得者の所得から消費税の徴収額をみると高率になります。衣食住と光熱費はもちろん、通信費や家電製品は現代の生活に欠かせない存在です。低収入であればある程、この必要最低限の消耗品消費の割合が高くなる傾向にあるので、結果、景気には悪影響を及ぼすことになるのです。

それから現実に消費税率が上がった場合、深刻な状況に陥るのは、中小企業と零細、個人商店等の経営者です。過去の消費税率が上がったときもそうですし、おそらく今後、消費税率が実際に上がったときも、同じことが起こります。ようするに価格に転嫁できないのです。小売店やサービス業、製造業にしても、大手はともかく、小さい企業ほど収益が落ちる可能性が大きく、売上が伸びない時期に値上げもできません。税率が上がってもそのままの価格で販売することになり、その分を業者が被ることになり、結果的には利益は上がらず、納付金額が増え、経営を圧迫するのです。

いずれ経済成長が消費税率の上がった分を吸収します。なんて言っていますが、現場や当事者は、たまったものではありません。

いずれ消費税が実際に税率を上げたとき、収入が今と変わらなければ、消費者はより低価格の商品を求め、デフレ傾向が強まる可能性も出てきますし、消費そのものが減少して、倒産や失業が増えることも想定されます。