0226 所得税36 事業所得6 発生主義と権利確定主義

会計上の損益計算の処理において「収益と費用」の計上は、どのような考えに基づいて記録してゆき、また、それらの範囲はどのように規定し、記録はどの時点で行えばよいのでしょうか?

○○主義と言うように、会計では幾つかの認識根拠があります。

会計上の一般的な知識、いやルールと言った方が良いでしょう、には次のようなことがあります。
まず、簿記上の損益計算に関わる記録を行う場合、何らかの経済的な取引が発生し、その取引が完結するまでの過程を帳簿に記録するわけですが、この「完結」とは現金化によって完了することになります。例えば、毎日継続して商品を引渡し、それらの支払を一括して月末に受取る場合「売掛金」としてその都度取引を記録し、月末に受け取った収入は現金でなく手形であれば「受取手形」で記録し、その手形が現金化されて、ようやくその取引が完結します。(実現主義)

それから「収益と費用の期間対応」という考え方。これは厳密には困難な場合も多いのですが、その獲得した収益に係った費用をできるだけ正確に対応させることで、一定期間に計上した収益と費用の計算を合理的に対比させることを意味しています。

また、所得税が規定する収益、収入は、その源泉が「合法的な経済活動の成果である」、とは定めていません。つまり非合法な活動による収入であったとしても、その収入は課税の対象となり、所得税法人税として徴収されるべき収入にあたります。仮に、犯罪によって得た収入を課税徴収した場合、その後の裁判によって犯罪が確定し、払戻しに相当する事由が認められれば、手続き等によって徴収された税金は還付等により清算されることになります。
 

●現金主義
 前回の青色申告で「現金主義」が出てきました。
事業の経済活動において獲得した収益を実際に帳簿に記録する時、現金主義とは、その名の通り収益であれば現金を受取った時であり、費用は現金の支払いがあった時に計上します。収支記録は単純で簡単ですが、幅広い経済取引の事象を記録できないため、現在の会計記録としては例外的で、複式簿記による発生主義が殆どです。

この現金主義会計の帳簿記録では、収益と費用のみに留まる記録としては有効とも言えますが、例えば事業上で取引関係のある会社に資金を貸付けた場合等では、現金の支出が生じても「費用」とは別の意味の支出になりますし、借入して現金入金があっても収益とは呼べない収入なのです。


●発生主義
現金主義に対して、広く一般的な帳簿記録は「発生主義」と呼ばれるもので、これは事業における経済活動の中、収益または費用が生じる取引が起こった時点で会計記録を行います。現在の企業会計では、この発生主義に基づいた会計記録が要求されていますが、収益と費用の処理については「いつ、どのような事象で発生したのか?」と言う事実を、どう認識するのかによって、計上時期や計算が異なってきます。

具体的には「引当金」を考える場合、企業会計原則では「将来の特定の費用または損失で、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、その金額を合理的に見積ることができる」と規定しています。

引当金の中には「貸倒引当金」、「製品保証引当金」、「退職給付引当金」などがありますが、例えば製品保証引当金であれば、その製品が不具合や不良品であった場合、一定期間内で条件を設けて、製品の正常な状態への復帰を約束します。一般的には製品の購入あるいは納品した時点で保証の効力が発生しますので、それに対応する費用の処理を行なっても当然と言えます。しかし多くの製品に問題が生じなければ費用は発生せず、その時に係る費用は実際に必要になる費用を予測することになります。この予測を過去の類似商品から統計的に修理や交換に係る費用を見積ることになります。貸倒引当金にしても退職給付引当金にしても、その費用や損失の起因する事象が当期のみに留まらず、将来にも影響を及ぼすことが想定され、費用および損失の金額を「合理的に見積る」ことが発生主義では許容されます。


●権利確定主義
この考え方は発生主義と似ています。現金の収支とは別に、その取引事象によって何らかの権利が発生し、法律上の裏付けによる権利、義務が確定した時に計上を行います。

所得税での収益に関する計上は原則、この権利確定主義が採用されています。ちなみに費用の計上は債務確定主義と言いますが、考え方は同じです。

例えば、個人でお弁当屋さんを経営していて、店頭で売れたお弁当では帳簿上の仕訳が「借方:現金、貸方:売上」となります。近所にある会社に毎日、注文分のお弁当を納品し、支払いは月末で締めて翌月10日に入金されるような場合では、日々の帳簿上の仕訳は「借方:売掛金、貸方:売上」の記録となります。俗にいう「ツケ」払いと同じ意味です。この時、現金販売のように直接現金収入はないのですが、注文されたお弁当を納めると言う「役務の提供」は完了していますので、翌月10日には現金を収めてもらう「債権」が発生します。これとは逆に、お弁当に要する食材の仕入において、その都度現金では支払わず、月末にまとめて支払うような場合では「借方:仕入れ、貸方:買掛金」で、月末まで現金等の支出はないのですが、仕入れの食材は手にしているので「債務」が発生します。つまり会計上の「債権」とは後日に現金化される売上で、「債務」は後日に金銭の支払いを残した費用と言い換えることができます。

債権と債務は経済活動を行えば、必ず発生するものなので、このこと自体は発生主義にも共通する内容と言えます。発生主義と権利確定主義の異なる点は、前述した「引当金」」のように予測される「見積もり金額」を権利確定主義は許容しません。従って、権利確定主義による所得税の算出では原則、引当金のような見積り金額は認められない。そうなるはずですが、基本通達や特例によって多くは認められているのが実情です。

実は会計の計算には、多くの「合理的見積り額」に頼るケースがあります。前説の引当金をはじめ、土地や資産の評価額もそうですし、税法上の対応年数が定められている減価償却の計算も、算出においては見積もり額以外の何ものでもありません。

大蔵財務協会「平成24年版、図解所得税」によれば収入金額とは、
(1)権利が確定していること。
(2)事実が発生していること。
(3)金額が確定していること。
の3つの要件を記載していますが、注意として「販売代金の額が確定していないときは、見積もり額により計上します」(基本通達36・37)とされています。
また、「引当金」についても一部は青色申告の特典としても認められています。

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