0239 所得税47 事業所得17 製造原価の計算

製造業における原価計算は、日商簿記では2級で「工業簿記」の範囲に入ります。しかし、その内容は簡単と言えません。精度の高い原価管理によって、製品の価格決定や利益管理までを可能とする範囲で、相当の規模、中規模以上の企業を想定しています。

原価計算の大枠は「総原価 = 製造原価 + 一般管理費 + 販売費」で、支払利息等の財務的費用や偶発的な損失など、いわゆる営業外費用は非原価項目にあたり総原価の中には算入されません。それ以外は全て総原価に含まれます。
しかし、一般的に原価とは製造原価のことを差します。

製造原価における原価計算の流れは以下のようになります。

(A)費目別計算
(1)直接材料費 : 素材や買入部品などで、どの製造品にどれくらいの量を投入したのか特定できる材料の費用。
(2)間接材料費 : 対象となる製造品に投入量等が特定できない材料費。上記の直接材料費以外の材料費で、例えば塗料や接着剤、テープや包装、それからハサミやペンチ等の工具など。
(3)直接労務費 : 製品の製造に直接費やした労働賃金、人件費。
(4)間接労務費 : 製造の補助的な労働、製造上で上記以外の賃金、人件費。
(5)直接経費  : 材料費、労務費以外の経費で直接となるのは外注加工費です。ここでは革の加工を外注しています。
(6)間接経費  : 外注加工費以外の経費。
※材料費は、いわゆる取得原価のことで、引取運賃や手数料などの付随費用を含めます。(外部材料副費)加えて、その材料を検査等をした場合の費用(内部材料副費)も含めて計算します。
労務費には「賃金」工員の給与、「給料」事務員や工場長などの給与、「雑給」アルバイトやパート等の給与、「賞与・手当」従業員のボーナスや通勤、住宅手当など、「退職給付費用」従業員の企業年金や退職金の費用、「法定福利費」従業員の健康保険料や厚生年金保険料など、人件費と呼べる様々な費用を含みます。

(B)製造間接費の計算
費目別計算では、製造における全ての費用を分類したに過ぎません。(1)(3)(5)の直接費は、製品原価を構成する直接的な費用なので、そのまま加算すれば良いのですが、間接費(2)(4)(6)の場合はその製品原価の、どの間接費が、どの程度が構成されているのか分かりません。そこで、間接費全体の費用を、ある基準によって製品に振り分けて計算します。このことを「配賦」と言います。
配賦基準の多くは、その製品の操業時間によって比率を決め、費用から単価を割り出し配賦します。また操業時間でなければ、生産数や製造部門ごとの広さの比率でも算出する場合がありますが、要するに根拠とできる基準を設けて、その比率を計算して配賦するのです。

例えば「鞄(カバン)」をつくるメーカーを考えてみましょう。
このメーカーでは3種類のバッグを製造しています。
X : ナイロン製の小型バッグ、製造数400個
Y : ナイロン製の大型バッグ、製造数200個
Z : 一部が革製の高級バッグ、製造数100個
ナイロン地 : 1平方メートル = 1,000円 → 小型と高級バッグは0.5平方メートル、大型は1平方メートル、を使用します。
牛革    : 1平方メートル = 4,000円 → 高級バッグのみ0.5平方メートル使用し、外注加工費として0.5?で1,000円が掛かります。
小金具   : 1個      =  100円 → 小型と高級バッグはそれぞれ4個使用し、大型では8個使用します。
大金具   : 1個      =  200円 → 小型と高級バッグはそれぞれ2個使用し、大型のみ4個使用します。
直接材料費 : 1,170,000円
間接材料費 : 200,000円
直接労務費 : X → 400,000円。Y → 200,000円。Z → 600,000円。
間接労務費 : 800,000円
直接経費  : 100,000円
間接経費  : 400,000円
合計    : 3,870,000円
上記のデータで、各種バッグの1個あたりの製造原価を算出すると、以下のようになります。
<直接費>
X → ナイロン地1,000×0.5=500円。小金具100×4=400円。大金具200×2=400円。400,000÷400=1,000円。計2,300円
Y → ナイロン地1,000×1=1,000円。小金具100×8=800円。大金具200×4=800円。200,000÷200=1,000円。計3,600円
Z → ナイロン地1,000×0.5=500円。小金具100×4=400円。大金具200×2=400円。直接経費(外注加工費)1,000円。600,000÷100=6,000円。計8,300円
<間接費>
(200,000+800,000+400,000)÷(400+200+100)=2,000円
<製造原価>(1個あたり)
X → 4,300円  Y → 5,600円  Z → 10,300円

費用を直接費と間接費に分けて、間接費は基準を設けて合理的な計算で配賦し原価を求めます。上記の算出はかなり単純化して紹介していますが、日商簿記2級で教わる工業簿記での原価計算は、もっと細かく複雑です。

受注生産のように1台1台個別に計算するのか、同じ仕様の製品を大量生産するのか、それによっても異なります。

また、原価管理は生産管理と直結していますから、精度の高い生産管理を行う場合には、もっと細かい単位でのデータ集計する必要が出てきます。それには費用がどこに、どれくらい消費されているのかを計測できる態勢が不可欠になります。

それらのデータを基に、例えば、家電メーカーであれば同じ企業内でもデジタルカメラと掃除機の製造では、その生産方法も異なります。製造品をカテゴリー別に分けて、つまり部門別に生産管理を必要とされるのであれば、部門別にデータの集計、管理が必要になります。また同じ製品でも、部材の調達や型抜き、素材の再利用や組立、それらの検査や不良品の製造頻度など、様々な工程による管理につても工程別にデータを集計する必要が出てきます。

部門別、工程別に様々な費用を細かい単位で管理し集計して、それが原価計算の基になるデータになります。原価計算は管理する単位が細かいほど算出する計算は複雑になってゆきます。部門による管理、工程別に管理を可能にするのであれば、それらの計測方法や集計単位、そして計算手法、それらの精度を踏まえて結果をフィードバックし、生産管理に活かすことができます。
確かに、より細かい単位で管理をすれば、それによって原価計算も複雑化しますが、計算そのものの考え方は単純化したものと同様、直接費用と間接費用とに分けて、その合理的な配賦によって算出されます。

しかし「原価計算」という枠組みで捉えると、もっと別の目的による算出、計算方法がありますが、ここでは必要でないので無視します。
また、上記の計算は実際に原価費用が掛かった場合の算出方法ですが、製品を製造するときに「いくらで原価費用を上げるべきか」と言う理論値、達成目標としての原価費用を算出し、実際に掛かった原価費用との差異(費用の差額)で管理を行う手法を「標準原価計算」と言います。この標準原価計算によって、管理における目標としての数値との差を把握することによって、製造における改善点を洗出し、経営に役立てることができます。

事業所得における原価計算青色申告による決算書の「製造原価の計算」の記入する科目については、上記のようなレベルの原価計算は必要とされません。極めて単純化された、と言うより、製造に関わる費用と、それ以外の費用とに区分けされている場合に、その製造にかんする費用を記入する、に過ぎません。
この場合も「製造による費用」「それ以外の経費」を日々、正確に記録しているのであれば必要ですが、区分けされていない場合は、その製造製品を販売した収入から経費を差引くだけになりますので、小売やサービス業と同様の決算書と同じになります。

原価計算は様々な方法がありますので、その専門書のコーナーを覗けば、ぶ厚い書籍がたくさんあります。それだけ複雑な要素が絡んでくる会計的な学問ですが、製造業に関わる事業の方、興味のある方は一度、簡単な「原価計算」の本を読むことをオススメします。どのように原価を算出するのか、生産の管理をどう行うべきなのか、そういった思考が身につくと思います。

と、言うことで、簡単ではありますが原価計算について触れましたので、ついでに「損益分岐点」を次回にやっちゃいます。

国税庁ホームページ「製造等にかかる棚卸資産」→http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/renketsu/05/05_01_02.htm
国税庁、平成25年分、青色申告決算の手引き→http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/tebiki2013/pdf/36.pdf
★当ブログ0231免責事項をお読み下さい。→http://d.hatena.ne.jp/sotton/20130102