0241 所得税48 事業所得18 損益分岐点

損益分岐点はいくら売れば採算が取れ、利益が出てくるかと言う、シンプルな疑問に応えるもです。分岐点なので、計算では売上と原価が相殺されて、営業利益がゼロであるときの金額が算出されます。

損益分岐点の計算は日商簿記2級で「直接原価計算」の項で出てきますが、これは工業簿記で製造業の原価計算の分野として入っていますが、ここでは簡単な損益分岐点の計算に留まります。

損益分岐の計算では、費用を「固定費」と「変動費」に分解する必要があります。
固定費とは、毎月の費用が一定の金額、つまり毎月必ず費用が発生し、その費用の金額が毎月同じ、あるいは過去のデータに基づいて、一定の金額を算出できる費用に限定されます。一方、変動費とは生産数や販売数に比例して費用が発生するものです。

例をあげて説明してみましょう。話を簡素化するために製造業ではなく、小売業の販売において損益分岐点を考えてみることにしましょう。

100坪の小売店、100円均一のショップを営んでいます。
一個について売上は100円ですが、仕入れは全て70%とします。費用については以下の通りです。
(1)店舗賃料      : 36万円(管理費等も含めます)
(2)光熱費       : 12万円(通信費等も含めます)
(3)アルバイト     : 88万円
(4)社員        : 120万円
(5)設備等       : 24万円(全てリースとします)
(6)包装、ビニール袋等 : 1個の販売につき平均2円の費用が掛かります。

上記のうちで固定費をみてゆきましょう。
(1) の店舗費用や管理費などは純然たる固定費です。契約によって毎月の金額は同じで一定しています。

(2) 光熱費、通信費の料金は基本料プラス使用頻度に比例して課金されてゆきます。従って完全固定費と言えませんが、過去のデータから季節指数化して固定費を導き出します。季節指数とは光熱費であれば、夏と冬の季節は冷房や暖房によって費用が膨らみますが、1月〜12月まで、どこかの月の光熱費を「1」として各月の比率を出し、月毎に費用計算します。実際の費用とは差異が出ますが、管理上では有効な手段で、損益分岐計算は「見積額」なので、高熱費などの費用は固定費の扱いで算入します。特に店舗における費用は、通常は営業時間が決まっていて、それに準じて業務時間が定まり、細かい時間差異は平均化することで、ほぼ解消されます。

(3) アルバイトの労働時間は毎日、時間帯で人数が決まり、土日などの忙しい曜日には通常より多人数になりますが、月の延べ労働時間は一定化し、時給で単価も決まるので、これも固定費の扱いで算入可能です。

(4) 社員は3名で運営しています。毎月の給料、様々な手当、社会保険料などの費用も含め、固定費の計上となります。
(5) レジーや什器などをリース契約で費用計上し、毎月一定額なので固定費とします。

(6) お客様が購入した商品を包装やビニール袋を提供するサービスを行っています。様々なケースがありますが、商品1個につき平均2円の経費が掛かります。

上記で(1)〜(5)は固定費の扱いとなります。固定費の合計は280万円。(6)の費用だけ変動費で、販売数に比例して経費が掛かります。つまり、変動費は売上や利益に比例して発生しますが、固定費は売上に関係なく発生する経費です。

ここで変動費の計算は上記の(6)と仕入が該当します。100円で販売して仕入れは70円、粗利は30円です。(ここでは、消費税の計算は無視します)と同時に、包装やビニール袋の経費が2円掛かりますから、売上から変動費全体を差引くと28円の利益となります。この利益を「貢献利益」と呼びます。「売上−変動費」=「貢献利益」

損益分岐点は「固定費÷貢献利益」ですので、上記の内容でいけば280万円÷28円なので月間10万個の販売をして全ての経費が相殺され、10万個を超えると1個あたり28円の利益が確保されることになります。

月間10万個の販売では1日あたり約3,334個の販売で、仮に1日に500人の購買客数では1人あたり6.7個の購入が必要、つまり500人の購入者の場合、1人平均6個の購入では赤字、7個以上であれば利益が出てくる計算となります。もちろん購買客数が500人以下であれば、平均単価はもっと増やす必要がありますし、購買客数が500人超えであれば一人当たりの平均単価は少なくて済みます。

参考にした例は、100円均一ショップなので、予め販売価格が決まっていますが、仮に上記と同じ条件でラーメン屋さんを考えた場合、販売価格をいくらで設定するのか?で販売数や利益が変わってきます。

上記の固定費(1)〜(5)の条件は同じで、ラーメンの麺やスープの材料費は一杯あたり700円で、そのほか割箸や食器などの洗浄に係る変動費が20円の場合、変動費合計は720円となり、一杯1,000円で販売したなら貢献利益は280円で一ヶ月1万杯、1日あたり約334杯が損益分岐点となります。それ以上売れれば1杯280円の利益が見込めるのです。

しかし、1杯を1,200円で販売したのであれば貢献利益は480円になり、損益分岐点の販売数は月間約5,834杯、1日あたり約195杯で、この数を超えれば一杯あたり480円の利益が見込める計算になり、逆に800円で販売すれば貢献利益は80円となり月間35,000杯を販売しないと採算がとれず、その数を超えて販売しても1杯あたりの利益は80円しかありません。
この計算でゆけば、1杯1,000円の販売を200円の値下げで、800円で販売したのであれば、約3.5倍の販売数が必要で、人件費はもっと必要になる可能性が出てきます。
逆に1杯を1,200円で販売できたなら約半分近い販売数で費用は相殺され、一杯800円の販売に比べると利益は6倍に達します。

これらのことを考えると、他にはない「味」や「雰囲気」、サービスの向上によって高値で販売し、尚かつ客数を増やす経営が健全である一方、低価格で販売を考える場合には、変動費を減らして貢献利益を上げるか、固定費を削減して損益分岐点上の販売個数を減らすか、あるいはその両方を考えなくてはなりません。

もちろん、今日この損益分岐点の紹介は1品目での計算ですが、多品目になると計算も複雑になってきます。

マクドナルドで100円バーガーを販売するとき、どれくらいの貢献利益があるのかは知りませんが、集客に一役買う価格ではあります。集客を増やし、ハンバーガーとポテトとドリンクのセットの購買も増え、一品目あたり同じ貢献利益であったなら、損益分岐点の販売数まで早く到達することになります。また、集客を増やすことによって高い利益を生む商品の購買も増える可能性が出てきます。集客を増やすための商品、購買数を増やすための商品、高利益を生み出す商品、これらの相乗効果によって高収益が獲得できるわけですが、この利益計算を想定通り、かつ継続して実績が表れるのは、現場の人達のスキル、モチベーションが支えているほかありません。

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